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R.U.K.A.R.I.R.I | 魔法少女ほむら☆マギカ Beginning with Charlotte その3
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2014.01.12
魔法少女暁美ほむら。彼女の魔法は鹿目まどかとの出会いをやり直すための魔法であるはずだった。
しかしながら、時間遡行で戻った世界は彼女の知る世界ではなかった。
記憶をなくしたほむらが出会ったのは、シャルロッテと名乗る不思議な金髪少女。
「あいつらの方が魔女だ。罰せられるのはあいつらの方――」
果たして、ほむらは元の世界に戻ることができるのか。シャルロッテの正体とは一体……?

その2


 子供部屋の中、子供たちがぐっすり眠っていることを確認して、
「……よし」
 ゆっくりと物音をたてないようにして立ちあがる。幸せそうに眠る子供たちの邪魔なんかできない。それにこのまま流れ続ける状況にただ漂うわけもいかないし、いつまでもこの場所にいるわけにもいかない。私は私の居場所へ戻らないといけない。
 お母さんや先生たちが心配しているはずだし……。
 だから……シャルさんの元へ行こうって考えていた。昼間のこともそうだけど、この世界のことをもっと聞こうって思ったから。彼女ならきっとなんでも知っている気がした。
 それに……夢のことも気になるから――。
 シャルさんは教会の外にいた。女神像の前で何かを考えるように目をつぶっていた。その手は何かを願うように両手でがっしりと握りしめていた。何かを待っているのか、何を願っているのかはわからない。けれど、とても……とても 真剣な顔をしていた。
 それに風が吹いているせいなのか神秘的にも見えた――長い金髪が揺れ動くその姿が。
「眠れないの?」
 そっと近づいたはずなのに目をつぶったままシャルさんが言う。何か物音でも聞こえてしまったのだろうか……?
「ううん、違うの。聞きたいことがあって」
『そっか』と目を開き、こちらを見てくる。あの綺麗な宝石みたいな碧眼で――。
「あの子たち以外に人はいないの……? ほら、大人の方とか……?」
 少なくとも、子供だけでどうにかできるそんな状況じゃないと思う。大人がいれば、きっと色々と不便なところがなくなっていくと……思う。
「鎧に聞かなかったの? 何か話していたみたいだけど?」
 口元を緩めたシャルが答えてくれた。なんで知っているのかなって思ったけど、シャルさんの魔法と甲冑兵士は話してくれたから、もしかするとある程度何をしていたのかわかるのかもしれない。そうするとシャルさんが甲冑兵士……? いやそれは違うかな。
「えっと……、もしかして、シャルさんはボランティアのようなことをしているの? 例えば、住むところがない子供たちの場所を提供したり……とか。キャンプとか?」
 キャンプはありえないかな。
「唐突な質問だね。残念……正解だけど、不正解。そうだね。これを見てもらった方が早いかも――」
 そう言葉をきると、シャルさんは赤い光の中から一枚の紙を取り出す。
「ほむらと同じ原理の魔法だよ、少なくともボクは使いこなしているけどね――」
 なんだか鼻で笑われた気がする。私はあの後――魔法使いの姿へ簡単になれるようになった。ただ盾から銃を取り出すことだけはうまくいかない。何回やっても思うものが何も出てこないでいた。ゴルフクラブとか、金属バットなんかは出てきたのだけど……。
 記憶を思い出していけばできるようになるかもしれないけど、それこそ今は笑われるくらいに使いこなせない。そんな私を気にする素振りも見せずに、シャルさんは言葉を続けた。
「今なら、ほむらに見えるでしょ。この新聞の中身が」
 赤い光に手を入れたシャルさんのその手には、いつか見た新聞が握られていた。
「そ、うかな?」
『はい』という言葉と共に新聞が渡された。手渡されるというよりか飛んできた。赤い光と共に。
 紫色の薄い煙が私にまとわりつきはじめたのを確認して、『さぁ上からきちんと読もう』という私に『そこの真ん中らへんかな』と指示を飛ばしてきたので、そこに視線を配ると、そこには魔女が人々を襲い、殺していると書いてあった。そのためなのか『魔女を探している』と、『魔女だった場合、生死問わず引き渡せ』とまで書いてある。
 そして魔女の写真の例として上げられているのは、あの時見たシャルさんの魔法使い姿だった。
 赤い服の、赤髪。新聞のモノクロ写真だとわからないけど、一応全身が赤と詳細としてデータが書いてあるから間違いない。
「彼らがどうしてボクと同じような甲冑兵士を使っているかわかるかな?」
 彼らというのは、どの人たちのことをいうのだろう……? どちらにせよわからなかった。教えてくれないことは何一つわかっていない。わかるのは、私が魔法使いで夢の中の登場人物と同じように銃を武器として扱い、戦っていたというすごく曖昧な事実だけ。
「わからない。そんな顔をしているね? そうだね。当然かもしれないかな。だから、答えを教えてあげる。とても簡単なことだよ。それは――操っているのは自分と同じ存在だから」
「えっ……? それってどういうこと……なの?」
「これは私であって、私じゃない存在。こいつらはボクのような魔法使いを魔女として襲い、殺す。それに従わない街を壊していく。魔法使いを匿えば、当然のように殺す。自分たち以外の魔法使いって異端を許さないんだよ。魔法使いは異端、魔女は異端。いわゆる人間じゃないって異端審判だよ。いわゆる敵ってやつかな、魔法使いは」
 私じゃない私……? 甲冑兵士ってこと? それとも子供たちのこと?
「ここにいるのはその……魔法使いの素質がある子……なの? そ、その……魔法使いの」
 彼らっていう、魔法使いに殺されちゃうかもしれないから、シャルさんが保護している? 
 でもなんで……?
「いや、正直いうとわからないかな。もしかしたらあるかもしれないし、もしかするとないかもしれない。でも、狙ってくる。それだけは確かなことだよ」
 説得力ある声でシャルが言った。
「魔女になるかもしれないから、保護しているということなの……?」
「そう。彼らは魔女を殺す。魔女に近いものも殺す。だからあるかもしれない人物は全て殺されるわけさ。おかしな話は、彼らにも魔法使いがいるってことだけかな」
 だから、少なくとも子供たちが安全になるまでは一緒に手伝って欲しいと、この後シャルさんがお願いしてくるのだった。
 混乱する中――いつか見たシャルさんに似たあの幻覚が頭に浮かんでは消えていった。


 シャルさんはこないだのこともあり、警戒を強めた。それはすごく当然なことでさらに、巡回する機会を増やした。私はといえば魔法使いの力を使っていたら、何か記憶が戻るかもしれないって思い、一緒に付き添いしていた。
 そんな中で巡回しているうちに、一つの疑問が生まれた。
 甲冑兵士は巡回できないのかってこと。その疑問は隠すことなく、シャルさんができるけど、戦闘はできないって答えてくれた。シャルさんが近くにいないと攻撃ができないとかなのだろうか? でも私を助けてくれたあの時攻撃していたよね? その時のことをまだ鮮明に覚えているし、恐怖ですらまだ感覚がある。
 何か……特別な条件が必要なのかな?
「さぁ、行こうか。ほむら」
 今日もその巡回に行こうとしていた。魔法使いの姿になることはすごく簡単で、念じれば一瞬でその姿になれる。女子高生の制服に似た白のブラウスと、白いフリルがくっついた紫のスカート。そして魔法の元である左手の甲に埋め込まれた宝石、魔法の盾。この姿は着慣れていないはずなのにしっくりとくる。
 夢の出来事が本当のことなら、当然のことかもしれない。
 夜だというのに見送りに子供たちが入り口で待機していた。眠かったりしないのかな?
「帰ってきたらご本読んでね!」
 笑顔で笑う子供たち。巻き毛の頭をなでるとシャルさんが一人先に教会の外へと出ていくのが見えた。シャルさんは車椅子を勝手に進めていくから、置いていかれないようにしなきゃ。
「シャ、シャルさん、ま、待って!」
 この姿でいるとなぜか今の自分が、昔の自分と何か違う感じがした。弱々しい昔の私じゃなくて、強い私。だからこんなにも普通に人と話せる――そんな気分だった。
 最初は巡回ってよくわからなかったけど、だんだんと怪しいところや敵と遭遇して、次第に力の使い方を思い出していく気配があった。
 それも昔からある力であるかのように、自分の手足のように使うことが徐々にでき始めていた。
『帰ってきたらご本読んでね!』
 それが私と子供たちの最後の言葉になるとは、この時誰一人も思っていなかった。

 ――かげりのある表情を見せていたただ一人を除いては……。


 警戒巡回を終えて、戻ってきた私たちを待っていたのは――暗黒だった。
「うっ……!」
 知らない世界がそこにあった。数時間前にあったはずの楽園はそこになくて、希望は絶望と化していた。瓦礫の山が……視界を埋め尽くそうとしていた。
「こ、これって……シャ、シャル……さん?」
 シャルさんに声をかけようとしてできなかった。
「……っ」
 シャルさんは震えていた。それも小刻みに。
 正面へと向きなおして、私の視界に入ってくるのは揺らめく赤。
 この場所はシャルさんの許しがない人には壊れた瓦礫に見える。そう教えてもらっていた。実際には壊れていない教会とたくさんの花が見える場所のはずなのに。今の教会は門を抜けても変化しない、ただの廃墟。
 強い光を放って、火の粉を飛び散らせていた。
 全てを炎が燃やし尽くそうとしていた。――安息も静寂も平穏も。
 その炎によって、周りに生えていた花も焼かれて燃え、風に飛んでいっていた。
「なに……これ……! こ、子供たちは……?」
 真夜中だというのに、赤い光が私たちをスポットライトのように照らし続けていく。まるでこの舞台へ誘うみたいに。そのせいか子供たちを発見できなくて、わからない。まさか、巻き込まれて……?
「どこに……」
 光を少しでも遮ろうと目を細め、手を顔の前へと運ぶ。あんなに綺麗だと感じた教会、花畑。かつて感じた面影すら今はもうない。
 全てが……全てが失われつつある。警護していたはずの甲冑兵士の姿さえ見えない。
「……」
 周辺を照らし続けている炎とは別に、赤い流体が教会だったものを彩っているのが見えた。そして、
「あっ――あ、あぁ」
 その流れの本流にある赤い物体が視界に入って、胃酸が逆流を始めていく。
「はぁはぁ……くぅ!」
 押し止めようとすればするほど、呼吸が乱れ始めていく。物体から眼をそらせば……、でも身体はうんともしない。まるでコンクリートで固められたかのように動くことを拒否された。
 涙が止めどなく流れ始めて……、ついには私の体内の奥底から何かが壊れ落ちそうになり、
「――っ」
 少しでも衝動を抑えようとして、数回息を呑みこむと、
「……大丈夫?」
 シャルさんが瞬時に、その物体を視界から隠してくれた。風になびいて揺れる赤い布、その色だけが私の視界を支配する。その赤は、目の前にあった赤い物体とは違い暖かみを感じることができた。だからなのか、
「あっ――」
 呼吸の乱れが少しずつ収まり始めて、心臓の高まりも落ち着き始めてくるようだった。
「あ、ありがとう」
 その声を聞いたシャルさんが静かに手を下ろし、再び惨状が視界の隅々まで侵食してきた。でも、先ほどと違って落ち着いて見ることができた。ワンクッションを置いたからなのかはわからない。
 スポットライトの役割を終えたのか私たちを襲った眩しい光は収まりつつあった。それはまるで見せるものはもう終わったかと告げるように思えた。
「……ん?」
 そのおかげなのか、赤く染まった草花。粉砕された女神像。甲冑兵士と思われる鎧の砕かれた金属片。人の形をした赤い影ときちんと目視できた。でも、嫌な気持ちになるのは変わらない。
 教会の屋上にあるのは……何か鋭い刃物によって、切り裂かれた子供だった。それも元が何だったか判別できないくらい。私が認識できたのは見たことのある『服装』……だったから。
「……」
 シャルさんが一歩前に進む。私はその後に続き歩く。どうしてこうなってしまったのって疑問が全身を駆け巡って、同時に寒気を感じた。何か嫌なことがこれから起きてしまう。そんな気分にさせる苦しくて嫌な寒気だった。
「……」
 シャルさんの背中は泣いているようにも怒っているようにも感じられる静かなものだった。その背中を見つめていると、
「あれは……!?」
 教会のシンボルとも言える女神像の下で、何かうごめく影を見つけた。小さい塊。それが周囲に何かを投げ続けていた。それも雨のような滴を撒き散らしながら。
 薄暗い中、その滴は炎の色を反射しているのか赤く見えた。どす黒い漆黒の赤を。
「――もしかして!」
 よく見てみれば、その影から特徴ある髪型が見えた。私に本を読んでと言った巻き髪が特徴な少女の姿の人影のようだった。
「あの娘……!」
「待って――」
 どうしてこんな状況になっているのか訪ねようと動き始めた私を、
「えっ……?」
 シャルさんが制した。今度は完全に腕を捕まれ、引っ張られる形で――。
「シ、シャル……さん?」
 振り返ると、真剣な顔をしたシャルさんが……私越しに巻き毛の子供を睨みつけていた。
「あれには近づかない方がいい。どうしてもというなら、武器を出して」
「何を言って……いるの?」
 それって、目の前の子供が敵っていうことなの……? そんなことない。そんなはずない。数時間前だって、あんなに本を読んでってせがんできたのに。本を読んであげる約束だってした。だから……、だからっ!
「あの娘は――敵なんだよ」
 シャルさんの手を振りほどこうにも凄まじい力が入っているのか無理だった。硬直しているみたいに動かせない。
「大丈夫。これは大丈夫なんだ」
 つぶやきみたいな震える声は、誰に向けられたのかわからない。だけど、
「ほむらはそこで立っていて、ボクが聞いてくるから」
 身体を引っ張られ、強制的にシャルさんの後ろへと連れてこられて、やっと私の拘束が外れた。
「シャルさん……!?」
 シャルさんはゆっくりとその影に近づいていって、巻き毛の子供に触れようとした瞬間、
「っ……!」
 シャルさんの息を吸う音と、周囲を襲うように金属音が同時に響き渡った。
 そして突風が一度吹き荒れると、その衝撃を受け、
「な、なんなの……?」
 私のすぐ側へくるりと一回転して飛んできたシャルさんは、
「やっぱり、敵。あの娘は敵なんだよ……!」
 無表情で私に答えた。感情が見えない顔にはいつできたのか直線の切り傷ができていた。そこから赤い血が流れていたけど、赤い光が見えて傷跡が消えた。
「それって、どういうこと……なの?」
 私の問いに答える前に、
「はじめからわかっていたこと……かな!」
 シャルさんが両手を真っ直ぐに構え、巻き毛の子供へと急接近していく。右手を上に構え、切り裂く攻撃の動きだった。シャルさんの武器ともなる衣服での斬鉄攻撃。
「だ、だめだよ! シャルさん、その子は!」
 踏み出そうとした私に、先ほど以上の甲高い金属が一度すると、
「ほむら、大丈夫だよ。よく見てみなよ」
 シャルの落ち着いた声が耳に入ってきた。
「えっ……、何を言っているの……?」
 ゆっくりと炎の光がその影を捉えると、
「くきゃきゃきゃ、楽しいよ? お姉ちゃんたちもする?」
 口元を赤く染めた巻き毛の子供がそこにいた。それも二つの刀を構え、シャルさんの攻撃を防いでいた。
「――。お前がこれをやったのかな? いや、聞くまでもないかな。これは決められたことなのだから……さ。謝ることも怒ることもしないよ……」
 シャルさんが右手を押し込むと、続け様に左手を引いた。
「あはははは」
 巻き毛の子供が笑う。それを契機に追撃の一閃がシャルさんの左手から放たれていく。
「だめだよ、お姉ちゃん! そんなんじゃ、だめなんだよ!」
 シャルさんの右手を押し返すとともに、巻き毛の子供の右手に握られた刀がその一撃を防いでいた。
「ちっ……!」
 巻き毛の子供を蹴り飛ばすと、シャルさんがこちらを振り返えった。
「ほむら、こいつの相手はボクがするから、他の無事な子供を探して欲しいかな……?」
 シャルさんは笑っているはずなのに――。
 どうしてだろうか今まで見た笑顔の中で一番悲しい顔をしていた。
「うひゃは、やうははは!」
 もう本をせがむ少女は……どこにもいなかった。
「……これでいいんだ。これで――」


 外から破壊できないなら、中から壊せばいい。すごくシンプルで簡単なこと。でもそれは効果的すぎるくらい適切な考えで、目の前の現実。答えがここにあるのだから。
「くぅぅ……」
 シャルさんの唸り声と少女の笑い声がこの空間を響き渡らせていた。
 舞台劇の役者のように二人はお互いの武器をぶつけ合い、距離をとり、瞬時に近づき一撃を放つ。それの繰り返しだった。
 決定打を狙っているのだろうけど、お互いにどれも外れ。シャルさんの服は針金か鉄が入っているのかと勘違いするくらいの強度で、少女が持つ二本の刀を何度も振り払っていた。音も刀の音に負けないくらいの金属音を放っている。甲冑兵士の攻撃でもビクともし無いのだから、ある意味当然の強度なのかもしれない。
 巻き毛の子供が扱う刀も同じくらいの強度があるのだろう。甲冑兵士を切り裂けるくらいに鋭利な攻撃を受けてもびくともしていない。だから、見る限り例え刀がシャルさんの身体を捉えてもきっと効果はないように思えた。
「……うん」
 私は私のできることをしようって壊れた教会の中へと入った。
「っ……!」
 熱風が私を襲ってくると、中がゆっくりと見え始めた。やっぱりどこも壊れている。
「だ、誰かいませんか?」
 ゆっくり足を進ませながらシャルさんに言われた通り、無事な子供を探すけど……どこにも見当たらない。屋根から落ちてきたのかわからない瓦礫を退かすと、何かわからないものが血塗れで人の形を作っていた。
「っ……!」

 ――認識してはいけない。考えてはいけない。直視してはいけない。
 
 そう考えても私の目の前に広がる刺激は消えようとしない。むしろ、悪化していくばかり。
 血流のような魔法の力の流れと頭痛がまた私を……襲いつつあった。
 濁流みたいな流れが全身を巡って、心臓が高鳴って飛び出してしまいそう……!
「うっ……!」
 頭痛が『この状況を見ろ、見ろ』と呟いてくる。何を見ろというのだろうか、私はこんなの見たくないし、本当だったら関わりたくなんかない!
 でも、何かこれと同じものを見たことがある……。
「っ……!」
 ち、違う! 私は見たこともない! 子供たちを探さなきゃ……。だから、
「あぅ……」
 痛みをこらえながら瓦礫を次々に払いのける。私の身体はどうしてだか、紫色の光が盾を主軸に輝いていた。その影響で炎の影も光ってよく見える……。
 これは魔法を使った……から? ううん、そんなことを考えている時間なんてない……! 生きている子供たちを探す。認識してはいけないものじゃなくて!

 ――私にはできなくて、――ちゃんにできること、お願いしたいから。

「ち、がう……!」
 知らない誰かの声をかき消す。何も聞こえないし、誰も言っていない。
「っ……! ……聞こえない聞こえない、聞こえない! だ、誰かいませんか!?」
 ただの幻聴だと言い聞かせる。子供たちを助けなきゃ!
「痛っ……!」
 何かで指を切ったのかそこから流れた何かで手が赤く、赤く染まっていく。まだ生きていたという暖かみのある赤い液体。それが纏わり続けてくる。
 また声が聞こえてくる……。

 ――いきなり秘密がバレちゃったね。

 ただの幻聴なのに、頭痛もする。魔法の光もさっきよりも強く私から、なぜか漏れ始めてくる。
そしてあわせるかのように『思いだせ、思い出すんだ』と罵倒する言葉が聞こえてくる。知らない誰かの声がたくさん頭に響いてくる。

 ――ごめんなさい、ありがとう、後はお願い、かっこいいなぁって。

 わからない……。これが頭痛なのか何なのか……! いくつかの幻覚すら見えるようになってきた。あまりの状況に頭がおかしくなってしまったのだろうか……。
 でも私には――わからない……、わからない……よ!
「くっ……」
 ふらつきながら感情を必死に押し殺す。痛みを無視する。大丈夫……、まだ助かる子供もいる。私のことなんて後回し、……助ける。そう心に刻み込む。だけど、
「えっ――」
 頭から熱い液体を――浴びた。
「い、いやああああ」
 全てが赤く染まっていった。目に見えてくるのは、赤、赤、赤、赤――。
「あぁぁぁぁぁぁ――」
 もう感情をせき止めるのは無理だった。次から次へと脳内にさっきから見ていた映像が過ぎ、見たことのない夢の映像まで過ぎていく。

 ――誰かの悲鳴、誰かの絶叫、誰かの喝采、誰かの咆哮。

 何かの砂の音ともに、誰かの声が頭の中を木霊していく……!
「ぐぅ、あぅ……、いぅ……!?」
 頭痛が全身の痛みへと代わり、私の身体を痛めつけてくる。
 もう立っていることもできず、その場に身体をこすりつけるよう転がり続け、
「まどか……、ごめん……!」
 ふいに言葉が出た。
 何の名称なのかはわからない。
 だけど――その言葉が私の中に反復していく度に何か温かい気持ちが湧いた。
 昔こうして、誰かと寝そべっていた、そんな懐かしい気分でさえしてきた。
「ま、ど、か」
 再度その言葉を口にすると、
「えっ……?」
 突如として、音が消えた。視界から炎の色も、痛みも全てが消えていった。
 私の左手にある盾から漏れだした紫色の光が辺りを侵食していって、だんだんと――白に。
 全てを真っ白の純白の世界へと、変えていく。
「何……これ……?」
 もしかして、私死んじゃったの? あの痛みは不治の病か何かだったの……? 
 それとも魔法を使いすぎたせいで……?
「あれは……」
 やがて、その純白の世界にピンク色の髪をした少女の後ろ姿が見えた。
 
 ――見覚えがある。

 夢で何度も見たことのある少女。その少女が振り返り、笑った。そして、その少女は言葉を発した。

『キュゥべぇに騙される前のバカな私を、助けてあげてくれないかな?』

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 あぁ……、なぜだろう。どうしてなのだろう。今までどうして忘れていたのだろう。
 こんなに大切なことを……。私が救うべき人のことを……、私がすべきことを……。
「まどか……!」
 ピンク色の少女――まどかは笑い続けていた。これが役目だというかのように。
 笑っていても、私には分かった。泣いているのだと。
「まどか……、まどか……」
 ごめんなさい。あなたのこと忘れていたなんて……!
 私の足は自然と駆けていた。まどかへと向かってまっすぐ。
「まどか!」
 光の粒子のように世界が崩壊を始めた。ガラスの破片のように次々に割れていく。
 まどかの身体に触れるか触れないかの時点で、
「あっ……! そうだよね……、まどか……」
 まどかに触れることは許さないと世界が警告するかのように、世界が消える前にまどかが消えた。その温もりを感じることはできなかった。優しいその顔しか見ることができなかった。
 そしてその世界は消えた。まどかも完全に消滅した。崩壊した世界は終わり、残酷な世界が私を再び襲い始めていた。
「キュゥべぇ……、あなたはどこでも、誰でも悲しませるのね……。それがあなたの役目なのだから仕方がないのかしら……」
 私は掴めなかったまどかの粒子を掴みこむように握りこぶしを作り上げると、前へ進んだ。
 メガネも髪留めも必要ない。ソウルジェムさえ、あれば何も問題ない。
 圧縮された魔力が血脈のように、私の全身を駆け巡っていく。私を包み込んでいた紫色の光が盾に収縮されていく。
 うっすらと、紫色の線が伸びているのが見えた。
「あっちは確か……」
 シャルが戦っている場所……。
 シャルと何か関係が……? 
 もしかしたら今までのことは……そういうことなの?
「そう……よね」
 シャルが知らないわけがない。
 だからこそ、彼女は……。だから私はシャルに問い詰め、帰らないといけない。

 ――まどかのいる世界に。

 だから、行こう。シャルの元へ――。

 シャルは壊れた女神像の前に座っていた。炎は消えてしまったのか、月明かりだけがシャルを照らしていた。優しい光のはずなのに寂しさを感じる。シャルは近づく私に振り向かず、
「あいつらの方が魔女だ。罰せられるのはあいつらの方――」
 と声を放つ。
「シャル……」 
 ゆっくりとその側に寄ると、シャルの胸の中で眠る子供が目に入る。それはもう動くことのない屍となった巻き毛の子供だった。もう起きて声をかけてくることのない眠りについていた。
「……」
 名前すらわからない少女は優しい顔をしていた。肉体はシャルによって破壊されたのか、原型を留めていない。手足がついていなかった。
「くっ……」
 やるせない気持ちが私を支配しそうだった。だから直視をやめ、横を向いた。
「シャル……か。なるほど……ね。記憶は戻ったのかな……? ということは、もうボクの力も――おしまいなのかな」
「!?」
 どうしてそのことを……! まだ何も話してもいないし、前兆すら見せていないのに……! 横を向いたはずなのに、シャルを直視せざるを得なかった。やっぱりシャルは知ってて……!?
「それがほむらの本当の姿かな? 似合っているねと言ったほうがいいのかな。こんな時にそんなことを……いや――」
 シャルはゆっくりと巻き毛の子供をおろすと、
「ボクの……、わたしはね。こうなるって全て知っていたの……、運命というやつかな?」
 と言って立ち上がった。
「ほむらは本をここに来てさ、見たことあるでしょ? 子供たちに読んであげていたよね?」
「うん、あれがどうかしたの?」
 本の内容は双子の天使の物語だった。確かに似た場面があった。天使が犬を抱えて泣き叫ぶもので――。だけど、あれが全てだというのだろうか? そんな紛いこと――、
「あれが神託。あの物語通りにわたしの未来が動くの……、そして当然他の人もね」
 真剣な表情を向けてくる。偽りのない事実だと告げてくる。あれが魔法少女としてのシャルの力だというのか? そんなの聞いたことない!
「だから、私に会った時そんなことを……?」
「そう……、ほむらが魔法使いとして戻ることも何もかも全てね。記憶を失うことはさすがに書いてなかったけど……。この惨状もわたしは知っていたの。わたしがあそこであぁいえば、あなたは夢を見る。自分がいた世界のね。車椅子の時にも夢を見たのでしょう? あれもわざとわたしは攻撃を受けたの。だからこの有様も回避できないことだったの。全ては決まりごと……」
「そんなこと回避すれば――」
 何を言っているのだろうと思った。私自身がまどかを救うことができていないのに、そんなことを言う資格があるというのか?
「ううん、無理なんだよほむら。もう……。あなたを元の世界へと返すことがわたしの物語。フィナーレなんだよ。今までのことは前座。余興にすぎないんだよ。物語は終わりに進んでいくんだよ。それが物語と呼ばれるもの。わたしもこの力が嘘だと思うことはあったよ――」
 シャルの瞳から一粒の涙が溢れる。
「だけど、その通りにわたしの物語は進んでしまった。進み続けているんだよ。だから、信じる以外他に何もない、何もない……んだよ」
「そんなの絶対おかしいよ、シャル……。だって、あんなに……」
 あんなに笑い合っていたのに、あれも嘘だというのか……。全て私のためにそういう役割を演じていたというのか……? どうして未来を変えようとしないの……?
「これはね、わたしが始めたことなんだ。だから、ほむら。あなたがここに来てしまった。本来いるべきでないあなたが……、ならわたしは責任を取らなきゃいけないんだ。過ちを願ってしまったわたしの罪……でも、それもおしまい」
 それなら……なぜ、この娘は笑うのだろうか……? 
「今までごめんね? 大丈夫。あなたにはわたしの力の影響をもう受けないよ。圧縮された魔力の反作用も起きないよ。あるとすれば――」
 シャルは目を閉じ深呼吸すると、語りだした。
 いつか私が子供たちに聞かせた、双子の天使の物語を――。


『あるところに平和の国がありました。そこでは争いごとは決して起こらず、皆が手を取り合って生活していました。 時には怒り、喧嘩することも当然あります。ですが終わってみれば、お互い笑いあって手を握りすぐに仲直り。
 そんな平和の国でしたがある大事件が襲うことになります。
 なんと王様に待望の子供が生まれたのです。
 皆は自分の子供が生まれたかのように喜びました。
 国王が王妃と共に赤ん坊を抱きしめて、皆の前へと現れます。その手の中には幸せそうに眠る赤ん坊が二人眠っていました。産まれた赤ん坊は双子だったのです。
 国王はそれぞれにシャルロッテ、リーゼロッテと名付けました。
 数年が経ち、子供たちはすくすくと成長していきました。双子の一人は足が生まれつき悪く、うまく歩くことができませんでした。そのため、車椅子の上での生活を余儀なくされていましたが、双子のもう一人がかばうようにして生活していたのです。だから、全然不便にも不自由にも思っていなかったのです。
 国王と皆はそんな二人の様子を、幸せそうに見つめているのでした。続くならいつまでもこんな日々がと誰もが思っていたのです。
 でも……それはある時を境にして、崩れ落ちるのでした。
 平和と言っていたその国にも遂に、争いの火種が降り注いだのです。それは平和で豊かな国を略奪しようとする戦争でした。
 争いごとに慣れていない平和の国は次第に弱っていきます。抵抗に抵抗を続けていますがもたないことは明らかでした。
 国王は女の人と子供だけは、逃がすと言って召使いの一人に双子の娘を任せます。
 召使いに抱きかかえられながら、赤く悲しみに満ちた炎に焼かれる国を横目に双子の一人は思います。奇跡か魔術があれば、皆を救えるのにと。目から涙が止まりません。口からも嫌だと言う言葉しかでていないのでした。
 戦争の炎はついには双子の一人を襲い、傷つけてしまいました。動かない身体を必死に動かし、目に涙を浮かべながら泣き叫んでいきます。
 そんな泣き叫ぶ声が突如としてなくなりました。何もない空間に自分ただ一人いるのです。そして沈黙を破るように何もない白い空間から、一人の老人がなんと現れました。
 老人は言いました。
 わしの言うことを聞けば戦いを止められる。みんなを助けることができると。
 双子の一人、シャルロッテは老人の言ったことを守り、不思議な力を手に入れました。歩けないはずの足も不思議と動くようになったのです。
 そんな圧倒的な力を下に敵を蹴散らします。敵から魔女と罵られようと、人をばっさりと倒していくのでした。
 そして、戦争は終焉に向かっていくかのように思われました。戦争はなくなり、平和は訪れていました。
 でも、シャルロッテは見てしまいました。
 自分の父親が自分と同じ格好をした少女に殺されるところを。シャルロッテは悲しみ、リーゼロッテとシャルロッテ――双子の少女たちはお互いの力をぶつけあいました。
 何分も何時間も何日間も戦いは、ずっと続いていきました。
 気がつけば、周りに誰もいなくなったことにシャルロッテは気づき、泣きながら逃げ出しました。慕ってくれた召使いも、女の人も子供たちも誰もいなくなってしまったのです。
 そうして、双子はついにバラバラになりました』


 すぅと息をはくシャル。その後は語るまでもないと視線がくる。
「だから、終わらせよう。もう一人のわたし……、妹の――リーゼロッテを殺して」
 シャルが空に右手を掲げると、周囲に次々と爆音と共に穴が空いていく。
「手伝ってくれる……かな、ほむら」
 ふと空を見上げるとあの人形が空に浮いていた。――赤い発光色を持つ人形が。
「この子たちには何も罪はないんだよ……、わたしがいけないんだ」
 視線を下に戻せば、そのことに気がついていないのかシャルは、ゆっくりと爆発によって、作り出した穴へ巻き毛の子供を寝かせていた。
 すべての子供たちをシャルと共に、土の中へ埋めてあげると、
「さぁ、行こうか。わたしの国へ。あの娘がいなくなれば、ほむらは未来へ帰れるよ」
 シャルが悲しそうな声を上げ、笑った。
 そもそも私はキュウべぇともう一人のシャルを見つけた時に思い出すべきだった。
 そうすれば、こんな未来にはならなかった。でもそれはシャルの願いじゃない。だから、どうすることもやっぱりできなかったのかもしれない。
 甲冑兵士がいたのに、どうして守りきれなかったという疑問は簡単に答えてくれた。
 彼らはシャルから距離を取ると、魔力の制御外に置かれる。そのため魔力の供給ができない甲冑兵士はただの木偶の坊で、後で何が起きたかを確認する程度のことしかできないと。
 でも、私は別の理由もある気がした。


 シャルの導きによって辿り着いた場所には、確かに城の姿があった。正確には廃城が。
 かつて人が住んで、賑わっていたのかもしれない。でもそれは遠い昔の出来事のように見えた。
 それは城壁にいくつのも穴が空き、草花によって緑が生い茂っていて、手入れが何もされていないように見えたから。その穴は戦争で生まれたのか、他の何かで生まれたのかはわからない。
 城の城壁に飛び移った私は、
「……これは」
 警備がずぼらになっているのに違和感を覚えた。城というのはその名の通り鉄壁の守備力を持った建物であるはず。故に籠城といった城に立てこもる、いわゆる攻城戦ができる。だけど、この城はもぬけの殻で人の気配がまるでしない。外から見えた通りに誰もいないようだ。城内部も大分自然化が進んでいた。
 ここにリーゼロッテというシャルの妹が住んでいるにしても、不可思議に思える。少なくともあの教会にいた子供たちのような人がいると思っていたのだけど……。
「昔は人でいっぱいだったんだけどね」
 そんな私の心情を察したのか、苦笑いしながらシャルがこちらを向いていた。
「そう……」
 昔住んでいた場所がこんなにも寂れているのをどう感じるのだろうか。でも聞いちゃいけないと悟って、私は警戒することにした。警戒する必要がわからない城内をゆっくりと歩いていく。
 甲冑兵士による突然の来襲もありえることだ。わざわざ敵を自分の有利に場所に追い込み、そこで襲う作戦はよくあることだ。もしかするとそのための静寂……なのかもしれない。
「大丈夫だよ、ほむら」
 シャルはそんな気配すらみせず、堂々と庭園のような場所を突き進んでいく。その姿を月明かりが照らしていく。かつてはここでシャルは遊んでいたのかもしれない。
「大丈夫って……! シャル、あなた……」
 急ぐシャルの左肩を乱暴に掴むと、
「っ――」
 見たこともない真剣な顔でシャルが振り返った。
「大丈夫なんだよ……。わたしはね、ここの主なんだ。誰にも否定されることもない、もう肯定すらされないけどね……。もう誰も居ないしね。あはは、面白いよね。平和を願ったはずなのに、もう平和なんてものを作り出す必要すらなくなってしまったなんてさ」
「そう……」
 私を振り払うようにシャルは移動を再開した。その背中は寂しさを感じられるものだった。


 ある地点でシャルが突如として停止した。それも見たことのある女神像の前だった。
周りをよく見てみると、教会と一緒で長い椅子が数多く並べられている場所みたいだった。何かの発表の場なのだろうか、オペラハウス? 敷地的にホールか。ここだけは屋根がきちんとあって、壁も壊れた様子がない。保護されている……場所なのか?
「どうかしたの……?」
 目的地に近いのだろうか? シャルの隣に立ち、周りを確認しても、何も感じない。殺気も、魔力も私たちのもの以外感じない。
「ううん、この像を壊さないといけないから……」
「必要なことなの?」
 グリーフシードと同じ役目を負ったものを破壊するということは、
「破壊すれば、わたしも……リーゼロッテも魔法は使えなくなるから」
 戸惑いもない声でそう断言された。やっぱり、女神像はグリーフシードと同じ仕組みをもっているのだろうか。でもどういう意味でインキュベーターはこれを作ったのだろうか? 
 願いごとによって、何かが変わったというのか? それとも別の何か目的があるのだろうか……? あいつのことはわからない。わかりたくもない。
「シャル――」 
 壊すと言ったというのに、そういったシャルは動こうとも壊そうともせず、ただその女神像を見つめるばかりだった。何か思い出の像なのかもしれない。ここに住んでいたというのだから、哀愁深い何かがあるのかもわからない。
だというのに私は責めるつもりもなかったのに、言葉が続き、
「……壊さないの?」
 と釘を刺すこととなった。
「……ごめん、大丈夫」
 風を感じると、目の前の女神像は像でなくなっていた。
「――んっ!」
 相変わらず鋭い斬撃。服の裾による攻撃。記憶が戻って、魔法少女の力を完全に理解している私にもはっきりその斬撃を垣間見ることができない。
 ただ女神像が宙に浮き細かくなっていくのが見えただけ。
「さっ――行こうか」 
 シャルの足元には女神像なんて像の影もなく、ただの石の塊だけが生まれていた。これでシャルは穢れを浄化できなくなった。リーゼロッテもおそらく……できなくなったのであろう。
 リーゼロッテもおそらく魔法少女であるはずだから……。
「……」

 ――それは私も同じ……なのかもしれない。

 でもきっと当てはまらない。だって私の繋がりは、シャルが関係している気がしていたから。


「リーゼロッテ、遊びに来てくれたの?」 
 大きな食堂のような場所に入った瞬間声が掛かった。反響音はまるでホールみたいね。
「……?」
 声の反響元である場所には、金髪の少女が壊れた窓から一人外を眺めていた。
 あの時見た少女に間違いなかった。あれは幻でも何でもなかったんだ。教会の中に入れるかのテスト、そして実行。あの惨状を実行した犯人シャルの妹――リーゼロッテ。
 でもどうやって、巻き毛の子供を操ったのかはわからない。甲冑兵士を操れるのだから、そんなことがもしかすると、できるのかもしれない。
「いいえ、違う。お前を殺しに来たのよ、リーゼロッテ。お父様とお母様、皆お前が殺してしまったのだから」
「リーゼロッテ? 違うよ、わたしがシャルロッテだよ。お母様たちは悪い魔女に惑わされちゃったんだよ? だから、リーゼロッテが殺してくれたんでしょ?」
 激怒にも似た声をリーゼロッテが発すると、こちらを振り返った。シャルと瓜二つの顔と、体付き、服装。確かに双子なのだろう。
「そうだね、お前はそれを願った。だからわたしになれたんだろうけど……、お前はわたしじゃない。お前は、リーゼロッテ・ハートクロイツなんだよ」
「ふふふ、ついてきなよ。せっかく来たんだから、遊ぼうよ。あの時みたいにさ。逃げないでよ? 前みたいのはつまらないからさ」
 リーゼロッテは驚きの顔を一瞬だけ見せると、近くにある大きな扉の前へと移動した。
「そうだ! リーゼロッテの玩具は壊れやすいんだね? 全然おもしろくなかったよ。住んでるところも綺麗じゃないし、だからさ……わたしが綺麗にしてあげたんだ。お姉ちゃんの特権だよね? お母様たちもきっと褒めてくれるよ。よくできましたって、いつもみたいに頭を撫でてくれるよね? いつ帰ってくるんだろうなぁ……」
「リーゼ……!」
「おじさん、後は任せてもいいんだよね? あなたのしたいことは全部やってきたんだから、少しはわたしのいうことを聞いてくれてもバチは当たらないと思うんだよ」
「やれやれ……、これも仕方がないことなのかな」
 いつからそこにいたのか、おじさんと呼ばれたものがリーゼロッテの隣にいた。シャルの息を呑む音が聞こえた。
「お前なんかに願うんじゃなかったよ。全てが壊された。平和なんてなくなってしまったよ」
「それがキミの願いだろ? 静かになったじゃないか。平和とはそういうものだろう? それこそ時代を超えてまで影響を及ぼしたんだから、大したものだよ」
「なっ!? 消えた」
 姿をくらましたおじさんと呼ばれるものの声が続く。
「シャル、キミは遊びたいんだろう? なら、遊んでいけばいいさ」
「うん、じゃぁ。リーゼロッテついてきてよね?」
 大きな音共に、リーゼロッテが食堂の外へと出ていく。その姿も大きな扉が閉まる共に遮られた。
「くそ、あいつどこに消えた……!? な、何っ!?」
 混乱するシャルの肩を掴むと、しっかりと目を合わせる。
「シャル、あなたは追いかけて、もう一人のあなたを――」
「で、でも……」
 おじさんと呼ばれるものが気になるのだろう。だから、
「大丈夫、私にはあなたのいうおじさんの対処方法がわかるから、ムカツクくらいにね」
 そうと半信半疑のシャルの肩を押す。
「わかった、必ず追いかけて来てね。ほむらを未来に帰すには必要なことだから」
「わかったわ、すぐに追いつくから」
 走りだすシャル。魔法少女の姿はどこか、あの魔女に似ていた。おそらく、きっと彼女の運命はもう決まっているのだろう。

 ――ではこの世界にきて、私がすることは何なのだろうか……。

「ほむら……」
 シャルが大きな扉を開きながら、こちらを見た。木と鉄の擦れる音がする。
「早く行って」
 シャルがここにいてもできることはない。いやできることは……あるか。甲冑兵士の相手はそれこそ魔法少女であれば、誰でもできるから。ただ倒すことができない。できたとしても、無限に復活するだけ。
「大丈夫、絶対大丈夫だから……」
 倒すことができるのはおそらく、私だけ。インキュベーターの存在がわかる、私だけ。化けの皮を剥がすのは私の役目――老人なんていないのだから、正体はもうわかっている。
 そしてもう一人のシャルロッテと対峙できるのは、きっとシャルのみ。だから、
「……お願い」
 シャルの視線を浴びるように背中を向ける。振り返らずに行けと告げる。
「わかった……よ」
 扉が音をたて閉まるのを感じると、そいつを凝視する。甲冑兵士に囲まれる形で私はそいつと対峙した。シャルがいう老人と。違うか……。
「また……あなたの差金なんでしょ?」
 いつの間に、こんなにも甲冑兵士を用意したのだろうか? 全く気が付かなった。もやから生まれるのだから、気付きにくいだけなのかもしれない。
 甲冑兵士は自分の兵隊の……つもりか。当然か、老人のつもりなのだろうから。
「はぁ……相変わらずなのね」
 リボルバーを出現させ、老人の姿がある場所へ撃ち込んだ。六発とも確実に殺せる急所へと放った。頭、胸とそれぞれ三発ずつ。
「何のことだい?」
 弾は確かに急所を貫通したはずなのに、平気な顔を老人はする。
 いや……実際にはそんな人物など、どこにもいない。人間……、魔法少女を人間と呼ぶなら三人しかここにはいない。私と同じ高さの視線には、あるのかわからない甲冑兵士の視線しかない。その視線も黒い煙の靄が見えるだけでよく見えない。
 シャルは見失っていたけど、最初からインキュベーターは移動なんてしていない。そこにいるのが自覚できなくなるだけ。今も老人のイメージを浮かべている。ホログラムと同じ原理。だから、言葉にする。
「……久しぶり、いいえ。ここでは初めましてかしら?」
 その老人は甲冑兵士の真下にいた。大きさは二十センチ。コンビニによくあるペットボトルぐらい。その小さい老人、いえ白い生物を見下す。
 もふもふと猫のような毛皮に覆われ、何を考えているかわからない赤い瞳がこちらを見ていた。虚ろな目が――。
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 こいつについて分かっているのは、効率のよいエントロピーの回収をすることと、何人もの少女をたぶらかし魔法少女へ変え、その命を奪う――憎むべき存在であるということ。
 そしてそのことに対して罪悪感もなく、助けてあげているという素振りをするということだ。
「君は一体……?」
 何も理解していない困惑の声をあげる。
 
 ――癇に障った。

 わかっていても、わからなくても同じようにとぼけ、ごまかす。聞かれないからと言い訳する、全ての憎しみの元。こいつだけは絶対に許さない!
「インキュベーター……」
 睨めつける。それが意味のないことだというのはわかっている。効果がないのもわかっている。
 シャルはこいつを老人と言っていたがそんなことはあり得ないし、起こり得ない。
 地球上の生物じゃないこいつは動物といっても危うい。生態系を破壊する外来生物……侵略者となんら変わりない存在だ。
「私にその姿は通用しないわ。あなたの誤認識能力はこの世界にいる人限定なのでしょう?」
 疑問を口にするまでもなく、既に決まっていた。私の目の前にあるものが全て。
 そもそもインキュベーターを認識できるのは魔法少女になる資格を持つ少女だけ。しかも第二次性徴期限定。インキュベーターにいわゆる会う資格がなければ見えすらしない。それに加えて限定条件、エントロピーを凌駕するほどの願いを持つ存在のみ。あたかも、絶望的な危機から救うかのように少女の前へと登場するのだ。
 そうインキュベーターは危機的状況においてあたかもタイミングよく現れる。
 だから少女は奇跡にすがってしまう。願ってしまうのだ。助からないと思ったことが、奇跡を願えば助かるのだから当たり前のこと。
 そして奇跡を願った魔法少女は希望から絶望へと堕ちる。願ったはずの奇跡よりも高い代価を払ってしまう。そうして、魔女が生まれるのだ。それ以外の前には決して現れない。
 だから、インキュベーター自身を魔法少女以外に認識させるには、人間が認識できる存在へ意識変換しなければならない。シャルが見る老人は、まさにこの意識変換を受けてのこと。
 魔法少女にも、普通の人にも見える存在だ。だけど、完璧に見える能力には穴がある。

 ――私の存在だ。未来から来た私にはその条件は当てはまらない。

「驚いたね、まさかボクの姿を捉えることを魔法少女がするなんてね」
 口ほどに驚いた様子でもない。相変わらずこいつには苛立ちしか感じない。
「折角、良い調子でエントロピーを回収できていたのに……すごく残念だよ」
 他人の不幸を何も感じない存在。
「それは良かった」
『むしろ、その方が良かっただろう?』と意見してくる。
「でもそこまでよ」
『どうするんだい』と問いかけられる。甲冑兵士の見えない鎧から赤い光が見えた。シャルの魔法の光と同じ色。双子の姉妹なのであれば、同じなのかもしれない。それにシャルは、『わたしとなれた』と言っていた。
 言葉から察するに、リーゼロッテはシャルロッテになることを願いにしたのかもしれない。だとしたら、魔法の光が同じなのは当然のこと。
「……?」
 金属の擦れる音がすると、甲冑兵士が一人、また一人とこちらへと向かってくる。全部で三十体ほどだろう……か。月の光に反射しない甲冑兵士もいるのかもしれない。
 とはいっても、赤い光が見えてしまっては、あまり意味が無い。隠れても無駄。
 インキュベーターはイレギュラーである私を殺すつもりなのだろう。でもそんなことさせないし、させる気もさらさらない。ここには私がいて、私の魔法がある。
 
 ――イレギュラーというのなら、私はそれに見合うことをするまでよ……!

「あなたごと、全てを破壊するだけよ……」
 リボルバーを投げ捨てると、ありったけの武器を出現させる。
 なぜ、時を戻った私が所持しているかはわからない。本来であれば、持っていけるのはいわば私の精神のみで、武器や私以外の記憶は失われるはずなのだ。
 それが時間遡行能力。しかもたった“一ヶ月限定”のもの。
 だからこそ、もう一度私がいるべき世界に戻ったら、きっと消えてしまうはず。
 だけど……存在しない人物、存在しないはずの武器がここにある!
 なら――意味は一つしかない。シャルの物語の一人だというのなら、その役割を果たすのみ。
「さぁ、死んでもらうわ」
 無限に再生するなら、そのもやがなくなるまで消し飛ばすだけ……!
 左手から次々と武器を投げ出す。どうせ、こいつらは使えない。使い方もわからないのだから。案の定、障害物が増えたかのようにぶつかるようにして甲冑兵士はこちらへ向かってきている。
「インキュベーター以外、けしとばしてあげるわ」
 左右の手の中に新しいリボルバーを出現させ構えると私は、足を進ませる。武器を持つのを待っていてくれたのか、甲冑兵士が次々と向かってくる。
 遠慮でもしているのか……? でもこっちは遠慮なんかしない!
「っ!」
 単調な攻撃だった。頭で考えていないただの攻撃。横振り、縦振り、突き攻撃。
「ふーん、面白い攻撃をするんだね?」
 インキュベーターの声が聞こえる。別にお前に見せているつもりはないし、お前に自慢するつもりない。甲冑兵士を倒し終えたら、次はお前の番なのだから。
「やれやれ番犬代わりに連れてきたわけなんだけど、やっぱりボクのいうことはさっぱりきかないみたいだね。これじゃぁ、リーゼロッテに直接言ったほうが断然はやいよ」
「リーゼロッテ……ね!」
 やっぱりあなたはそういう奴なのね……!
 リボルバーのトリガーを引き、攻撃を仕掛けてきた甲冑兵士の武器を狙うと吹き飛んでいった。人の意識が入っていない分、きちんと握りしめられていないの? 
 シャルの甲冑兵士はそんなことはなかったけど……。
「くっ……!」
 甲冑兵士の肩がリボルバーの弾に貫かれ、肩から下へ落下したにもかかわらず黒いもやがそのなくなった部分を修復していく。トカゲのしっぽのようにゆっくり形成されていく。どういう魔法なのかはわからない。だけど黒いもやがなくなってしまえば、維持することができないと思う。
 教会での戦闘で私は、もやを爆風によって蹴散らし、消滅させ甲冑兵士を倒していたのだから。
 ならばと出現していたRPG-7に手をかけ、次々と接近しつつある甲冑兵士に放つ。転がっているものを拾い、ただ撃つ。
「っ……!」
 時間を停止できないため、当たる数が少ない。だけど、何も直接当てるだけがこの銃の強さではない。吹き飛ばすだけなら、爆風だけでも構わないのだから。
「なるほどね、確かにボクがこの甲冑兵士たちを形成しているわけじゃないからね。キミがそうして吹き飛ばしてしまえば、途端に消滅してしまうだろうね」
「……」
 無言でその位置へとRPG-7を追加で放つ。インキュベーターを殺したとしても、意味なんてないのはわかっている。ただここにいるとやっぱり目障りで、うるさくて気が散る。ただそれだけの理由。他に理由をいうなら、そこにも甲冑兵士がいたから……だろう……か?
「……」
 煙がなくなったその場所には、インキュベーターの姿はなくなっていた。甲冑兵士もその数を少なくしていた。
 走りながら撃つのを繰り返しているうちに、建物はもはや穴だらけ。元々空いていた穴と比べても私が破壊してあけた方の数が覆い。月明かりが至る所から入り込んで、もはや外にいるのと対して変わらなくなってきていた。
「……はぁ」
 ……第二、第三のおじさんが現れる前に、シャルの元へといこうか。
 もうここには甲冑兵士を生ませるもやはないし、ソウルジェムを浄化する女神像すらない。双子の少女は魔女になるか、ソウルジェムを破壊する以外の死しか残されていない……。
 
 いや――もう未来は決まっていることか。
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