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R.U.K.A.R.I.R.I | 魔法少女ほむら☆マギカ Chapter of Sakura その終
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2013.08.27
暁美ほむらが巡ったもう一つの物語。
新たな魔法少女との出会いが、今始まりを告げる。

それは脅威なのか、救いなのか?

その6

※更新速度が遅いので、完了までに時間がかかります。

 太陽は沈みかけ空を赤く、月が青く変化させ始めていた。
「はぁ? それってどういうことだよ」
 月の光が照らす街外れで、少女たちが口論している。
「――うるさい」
 主に声を張り上げていたのは、杏子。さやかに怒鳴りつけていた。
「け、喧嘩は、や、やめようよ!」
 まどかは止めようとするが効果は今ひとつ。二人を止めることはかなわなかった。
「まどかには関係ない。これはあたし、あたしたち魔法少女の問題なの」
 冷ややかな声でさやかが反論し、まどかを睨めつける。
「……」
 その様子を断りもなく、覗いている者がいた――ほむらだ。
 ほむらは喧嘩を止めることもなく、話しかけることもなく、その様子を廃屋ビルの四階から、三人の姿を無表情でただ見つめていた。ほむらたち以外の人の気配はそこにない。
 その場所は寂れて、人を寄せ付ける力が全くなかった。娯楽スポットのような華やかな場所と違って、明るい楽しさが全く感じられない。そこにはただ芝生だけが一面綺麗に敷き詰められ、作業途中のために置かれているためなのか、ただ放棄されているだけなのか、芝生の隅には角材、鉄骨などが積み重なり瓦礫の山となって数多く散らばっていた。それは一見すると工事現場、廃墟跡にも見えた。
 その場所を守り、囲みこむかのように、廃屋ビルがいくつも建ち並んでいた。 廃屋ビルの一つからにほむらは、息を潜めていた。
 冷静を失っている二人には、ほむらに気付く余裕はなかった。
 三人がこの場所にいる理由は、魔女の気配がしたからだ。ここにいる理由はそれぞれあった。さやかは魔法少女としての使命、まどかはその付き添い、そして杏子はさやかへ警告。
 杏子の警告は、ほむらが時間遡行を行うたびに、何度も繰り返し起こる出来事だ。その警告はさやかに届いたことをほむらはまだ見たことがなかった。敵対していた時に生じていたかもしれないが、それをほむらが知ろうとも、知りたくも思わなかった。
 美樹さやかがどうなろうと、まどかが魔法少女になる事態が生じたからだ。
 繰り返される二人の喧嘩の火花が結果として、キュウベぇによるまどかへの魔法少女勧誘を引き起こす原因の一つとなっていた。
 だからこそ、ほむらは注意して見守っていた。何が起きてもすぐに駆けつけられるように、キュウベぇによる介入を阻止するために。左手に力がこもる。
「あんたさ、いい加減にしなよ。もういいだろ?」
「……うるさい、あたしの戦い方に口出ししないでよ」
 さやかが長剣を召喚すると、杏子へと向け睨みつける。その目はどこか虚しさを漂わせている。
 長剣でさえ、もう放っておいてほしいと刀身が光っていた。
 さやかは放っておくと魔女へ変わる。杏子とまどかの説得で、正気を取り戻したことは一度もない。だけど、杏子にそうしてもらう他に、ほむらは考えつかなかった。
「うるせーよ、お前にはまだ残っているもんがあるだろ?」
 杏子はさやかの長剣を素手で強引に掴むと呆気なくさやかの長剣を投げ捨て、さやかの肩にゆっくりと手を置いた。
「なぁ、さやか……違うのか?」
 さやかが自分自身の震え、そして杏子の行動に驚き、少し肩を揺らした。
「……杏子――、」
 さやかの純白のマントが徐々に赤く染まっていく。それは杏子がさやかの長剣を掴む際にできた傷口のものと同じ色だった。
「あたしには……一番大切だったものはもうないんだよ……もう無理」
 さやかが杏子から視線を反らし、
「あたしはね、魔法少女になったの。もう好きといってもらう資格も、愛してるって言える資格もないんだよ!」
 杏子の手を乱暴に叩いた。
「っ――」
 周囲に赤い雫が飛び跳ね、芝生を赤く染める。
「だから、もう構わないでよ……」
 さやかの瞳には言葉と裏腹に、大粒の涙が潤んでいた。
「さやかちゃん……」
 まどかがさやかに手を伸ばそうとして、すぐに引っ込めた。さやかに何を言ってあげればいいのかわからなかった。自分は魔法少女じゃない。さやかのことを理解できない。だから、何を言っても、きっと言葉でねじ伏せられてしまう、そう感じてしまっていた。
「くぅ……!」
 さやかは姿勢を低くし踏み込んで、後ろに跳ぶと杏子たちから距離を取った。それは攻撃のリーチとして考えれば、杏子が攻めへと転じれば、攻撃するのに十分な間合いだった。
「さやか……どうしてだよ! どうしてなんだよ!」
 直観的にそれを理解した杏子は持っていた槍を乱暴に投げ捨てる。槍が芝生の上を転がっていく。槍はどこへ捨てても、再度召喚することができる。それはさやかであっても同じことで、既にその手には杏子が捨てたはずの長剣が握りしめられていた。
 杏子は信じて欲しかった。敵対するつもりはないのだと、さやかと一緒に戦いと――だから、敵意を向けない。
「……わかってるでしょ? だって、あたしたち魔法少女は――、」
 さやかの言葉を遮るように、
「えっ……」

 ――黒い炎がさやかに、さやかのソウルジェムを穿いた。

 甲高い音を周囲に反響させると、さやかは地面へ重力に抵抗できずに潰れ落ちた。
 さやかのお腹にあったソウルジェムは、もう黒くも、そして青くも光っていない。もう何もそこになかった。
「さ、さやか!?」「さやかちゃん!」
 まどかと杏子がさやかの元へと駆け寄る。しゃがみ込んだまどかがさやかの身体を揺すっても、
「……」
 さやかの身体は何も抵抗なく、ただ揺れた。
 まどかが揺らせば揺らすほど、全身が震えるように揺れて続けていく。
「そんな……!? さ、さやかちゃん!? ねぇ! さやかちゃん!? 答えて!」
 まどかの声にさやかは目を開いたまま動かない。それはまるで人の形をした――ただの動かない抜け殻になってしまったようだった。
「くっ……!」
 杏子が乱暴にさやかの頸動脈を触ると、
「さ、やか?」
 生きた人間の感触がそこにはなかった。さやかの脈は既に停止していた。それは、美樹さやかの死を決定づけた。
 ほむらだけの知る――魔法少女としての死に方だった。ソウルジェムの破壊、それが魔法少女の死。
「死んでる……? ど、どうしてなんだよ……どうして……くそ!」
 杏子は立ち上がり、吠えた。
「さやかちゃん……さやかちゃああああああああああああん!」
 叫び声と共にまどかは、その場に尻餅をついた。流れ落ちる涙は止まらない。

「――避けなさい!」

 沈黙を続けていたほむらが四階から飛び降りながら、叫んだ。
「くっ!?」
 ほむらの声に反応した杏子は、瞬時に自分の周りに黒い炎がいくつもあることに気づき、近くにしゃがんでいたまどかを左手で掴み、そして、
「……ぅ!?」
 さやかを掴もうとした右手は虚しくも空を掴んでいた。
 杏子が声にならない声を発すると、
「くそっ!」
 近くの瓦礫の山へ一直線に跳躍した。
 跳んだ瞬間、杏子のすぐ後ろで激突音が響き渡る。
「さ、さやかは!?」
 瓦礫の上へと着地した杏子は、ゆっくりその場にまどかを下ろし、さやかのいた場所を見つめる。杏子の目に入ってきたのは、先ほどと変わりなく倒れているさやかの姿だった。
 違うのはさやかを中心に穴が開き、彩るように黒い炎が怪しく光を放っていることだ。
 それは神秘的で、さやかを天へ連れ帰る儀式のように杏子は思えた。
「さやかちゃん……さやかちゃん……さやかちゃんが……」
 杏子の足元でまどかはショックで表情を硬直させ、身体を震えていた。
「やめなさい、あなたも彼女と同じようになりたいの!?」
 杏子たちと同じ瓦礫の山に着地したほむらが、さやかの元へ駆けようとしていた杏子に言い放つ。
「お前、知ってたのか……? ソウルジェムが破壊されたらこうなるってことを! それに今の黒い炎はなんだ!」
 杏子が魔法で槍を召喚し直すと、周囲を見渡す。しかし、その原因である何かを見つけられなかった。
「――知っていたといえば、知っていた。知らなかったといえば、知らなかったわ」
 ほむらは自分の言葉に確信を持てなかった。
 確かにソウルジェムが破壊されれば、魔法少女は死ぬ。それは知っていることだ。
 だが、黒い炎を使うと思われる少女は、一度しか会ったことがない。
 だから、前者は知っていても、後者は知らない。
『……あなたも同じになるんだよ』
 どこからか聞こえてくる声と共に、黒い炎が空に突如として現れる。
 その数は、直線と錯覚するほどだった。
「くそ、なんて数だ!」
 避けれないと判断した杏子が槍を構える。ほむらもそれに合わせ盾から、サブマシンガンを取り出す。そして、まどかを守るようにその前に出てサブマシンガンの照準を向けた。
『ふふふ……』
 笑い声と同時に、直線がゆっくりと降下を始めた。
「ちっ」
 杏子が槍で攻撃をはじき、ほむらがサブマシガンを乱射する。黒い炎を何回も何十回、何百回も……数えきれないほど弾き返していく。
 弾かれた黒い炎は周囲に飛び、落ちた場所で黒い光を放っていく。
 その影響で薄暗かった場所が、明るさを徐々に持っていった。
「こいつ……ふざけやがって! 姿を見せろよ!」
 杏子が叫び声を上げるが、反応はなかった。
 あったのは、
「さ、さやかちゃんは……!」
 錯乱したまどかが立ち上がり、ゆっくり瓦礫から降り、さやかのいる場所へ近づく姿だった。
「ま、まどか!? だ、だめ!」
 ほむらの手は、まどかを掴めなかった。
「――杏子!」
「わかってる!」
 それを追うように杏子とほむらが瓦礫から降り、まどかを追った。
「ねぇ、どうして、さやかちゃんを……? ひどいよ、こんなの酷過ぎるよ! さやかちゃんは、ただマミさんみたいにみんなを守れる魔法少女になりたくて、そして、ただ……」
 まどかは、動かなくなったさやかを抱えながら話す。その近くにあった黒い炎の光は消え、その場所には短剣があった。
「理由がいるの? 魔女を殺すのに」
 ほむらたちの正面にあった瓦礫の山を吹き飛ばし、黒い炎をいくつも召喚しながら、声の主――さくらが姿を現した。
 まどかへと近づいてくるさくらの魔法少女の服には、所々傷が入っていた。それは瓦礫を吹き飛ばす時にできた傷なのか、元々あったものなのか誰にもわからなかった。
 ただ異様にそれは見えて、杏子は一瞬身体を震わせた。
「……あいつが、この黒い炎とさやかを?」
「えぇ、おそらくね」
 さくらを睨みつける杏子にほむらが頷く。
「さやかちゃんは……、さやかちゃんは魔女なんかじゃないよ! それにさやかちゃんは……マミさんみたいに……みんなを守るために魔法少女になろうとしたのに……。
 それなのにどうして――、」
 まどかが突然走りだし、
「……おかしいよ、こんなの絶対おかしいよ!」
 さくらの肩を掴むと、激しく、強く揺すった。
「……触らないでよ」
 さくらがまどかの手を乱暴に、強く振りほどく。
「あなたも魔女なんだから! それも最恐最悪の魔女! ほんと手に負えないよね? なんで生きてるのかさえわからない――、」
 汚物を見る目で、さくらはまどかを見て、触れられた肩を叩いた。
「汚い、汚い! 魔女は汚いんだ! ふふふ、でもやっと会えた。これでようやく終わるよ」
「何を言ってるの? ねぇ、どうして……さやかちゃんを……?」
 まどかが、
「さやかちゃんを返して!」
 さくらの手を強く握りしめた。
 どうしてもまどかには理由を聞きたかった。
『さやかちゃんは何も悪いことをしていないのに。マミさんの分までがんばろうとしていただけなのに!』と、まどかは心の中で反響させていた。
 思い続けなければ、意識を保てそうになかった。
「あぁ、うざいうざい。言葉ってほんといらない。どうして、しゃべるんだろ? ねぇ? 魔女がしゃべるなんておかしいよね?」
 さくらは笑うと、
「い、たっ!?」
 握られた手を強く握り返し、まどかを一旦引き寄せ、思いっきり蹴り飛ばした。
「ま、まどか!」
 それを見たほむらが叫ぶと、弾のなくなったサブマシンガンを仕舞い、新しいサブマシンガンを魔法で取り出す。
「触らないで! 汚らしい魔女め! いつまでも、わたしを見ないで! お前たちはわたしと違う。悪魔だ、全ての悪だ! 全て殺してやる――、」
 さくらの声は同時にまどかへと向け、
「一人残らず全員だ!」
 周囲にあった黒い炎が落下させた。
「……!」
 サブマシンガンで捌き切れないと感じたほむらは時を止めようとするが、それは間に合わなかった。それよりも早くさくらの魔法はまどかへ到達した。
「ま、どか……?」
 ほむらにとって、見たくない映像だった。
「いたっ、へ――」
 まどかの右足から血が流れていた。右足を押さえこんで、その場に糸が切れたようにまどかはその場に倒れこんだ。
「あっれ? おかしいな……殺せなかった?」
「まどかっ!? まどかぁ!」
 ほむらが表情を歪ませながら、まどかの元へと走りだす。
「うるさいなぁ……お前らも殺すんだから、順番ぐらい、」
 しかし、邪魔するように、
「――守れよな!」
 先ほどと同じように黒い炎がほむらに襲いかかる。
「っ――」
 ほむらはその攻撃に捕まり、思うように前へと進むことができなくなった。
「うぅぅぅぅぅ!」
 サブマシンガンでほむらはそれに向かって一つずつ撃った。それでも、黒い炎は消えようとしない。ほむらへの障壁となってあり続けた。
「おい、お前なにしてんだよ――」
 その後ろを赤い影が追い越した。
「――こんなことしたって、何も変わらないだろ! それにこいつは魔法少女じゃねぇ、まだ人間だ!」
 空から飛んでくる黒い炎を次々に回避し、
「その違いもわからねーのかよ!?」
 杏子がさくらの服を掴んで持ち上げた。さくらはそれに逆らう様子もみせず、手足をぶらぶらと揺らした。 それに激しい気持ち悪さがして、杏子の眉毛を微動させる。
「まどか? ねぇ、まどか。息は……している。よかった」
 杏子によって突破口は開かれて、ほむらはまどかの元にようやく到着した。脈を測り、生きていることを確認して、
「ごめんね、まどか」
 優しく抱きしめた。
 ほむらはまどかを抱えるとその場を跳び、先ほどまでいた瓦礫の上に降りた。
「うふふ、何が変わらないっていうの? こうすれば、みんなが幸せになるんだよ? あなたも本当はわかっているでしょう? わたしたちは悪なの! あははははははははは」
 さくらが口を大きく開けて笑う。
「うるせぇ、マミのことを言ってるんなら、もうわかってるよ。お前に言われるまでもなくな……!」
 杏子がさくらを視界から外した。
「ふふぃ――、」
 その一瞬の隙に、
「うるさい……! うるさいうるさいうるさい!」
 黒い炎をいくつも召喚した。
 それは、先ほどまどかを襲ったものとは比べならないほど、量が多かった。
「な、こいつ自分の身体ごとアタシを撃つっていう気か!? 正気かよ、お前!」
 杏子がさくらを睨みつける。さくらはそれに怯えず、黒い炎は増えていく一方だった。恐怖するどこかむしろ、この状況を喜んでいるように杏子には見えて、吐き気がした。
「別に、わたしたちの痛み、痛さ、痛覚なんてないじゃない。キュゥベぇに教えてもらわなかったの? 戦い方、魔女との出会い方。すべて、すべて、すべてキュゥベぇがみんな教えてくれるんだよ! あははははははははははははははあ」
 さくらの笑い声と共に黒い炎が、杏子に飛んでくる。
「正気かこいつ……!?」
 杏子はさくらを突き飛ばすとその攻撃を回避して、
「っ!?」
 黒い炎が落ちてくる間合いから、離れた。
「――やろうってなら、相手になるぜ」
 そして杏子が槍を回転させると矛先をさくらへと向けた。

「その必要はないわ」

 ほむらが杏子の進路を遮るように突如として、現れた。時を止める魔法だった。
 その背中は戦わないで、と杏子に訴えかける。
「ほむら、お前邪魔するってのか!?」
「――杏子、まどかをお願い」
 杏子が後ろを振り返ると、瓦礫の山の上でまどかが寝っていた。
「おい、お前一人でやるつもりか?」
「お願い。その娘だけは巻き込みたくないの」
 ほむらは、後ろを振り返る。その顔は悲しげで、苦しみに満ちた表情だった。
「私には、それだけの理由があるの! だから! 早くまどかをここから逃がして」
「……ちっ、しょうがねぇな。アタシにもそれぐらいはわかってる。あれだったら戻ってくるからな?」
 ほむらにうなずくと、杏子は持っていた槍を消した。そしてまどかの倒れている場所へ跳んだ。
「――そうだ、さやかは!? さやかはどこいったんだ?」
 跳びながら、杏子があたりを見渡した。でもどこを探しても、さやかの姿はなかった。
「さやか――、」
 その変わりに目に入ったのは、黒い炎が未だに燃え続けている場所だった。

 そこは――先ほどまでさやかがいた場所。

「ま、まさか……!?」
 杏子が迷いを消すかのように頭を横に振った。
「……くそ!」
 杏子は気絶しているまどかを左手で抱きしめると、その場を名残惜しそうに一度振り返り、何度も跳躍を繰り返しながら、この場から離れていった。
「あーぁ……! 最悪の魔女がいってしまったね。魔女は殺さなきゃ。みんな、みんな魔女は殺す殺す殺すんだ。ねぇ、邪魔しないでよ、ねぇ? “あなたも分かってる”のでしょう? 魔女のあなたは知ってるんでしょ?」
 さくらが右手の親指をぺろりと舐めた。
「……」
 その言葉を聞いているのか、いないのか、ほむらはさくらを睨みつけるだけだった。
 ほむらは何も言わない、答えない。
 答える必要はないと、そう意思表示しているかのように。
「ねぇ、何も言わないの? あぁ、そうかあなたもあの魔女を殺したいのぅ? ならぁ、競争だね。わたしは、いい子だから、百秒くらいは待ってあげるよ? えへへ、ママにもいい娘だから、きっとまたすぐに動けるようになるよって、ずっといわれてたんだよ。
 ほら、わたしはこんなにも自由に動かせるようになったよ!」
 さくらがそういうと、その場でくるりと回転し、周囲に黒い炎を大量に召喚する。
「……そんなことさせない」
 ほむらはサブマシンガンを構えた。
「ん? あなたもしたいの? いいよ、じゃぁわたしは待ってるよ? その間に他の魔女を倒すね。この近くにもまだいるから。うん、いいよね。いいよ?」
 さくらが楽しげにそういう。その言葉にほむらは苛立ちを感じながら、
「あなたはこれで終わり……さようなら」
 魔法を発動した。
 ほむら以外の時が止まった。
 音がない。誰も動かない。それは何もない世界。ほむらだけの世界。
 その世界をゆっくりさくらへ、ほむらはまっすぐ進む。
「……ごめんなさい」
 動くことのできないさくらの額にあるソウルジェムに、ほむらはサブマシンガンの銃口を押し付けた。引き金を引けば、終わる。これで、まどかの災厄を一つ取り除くことができる。
「……」
 ソウルジェムが砕かれれば、確実に魔法少女は壊れる。それはさやかの時と同じ。
 苦虫を噛み潰したような表情をほむらが一瞬だけ見せると、
「……」

 ――銃声がした。

 銃弾が、さくらの額にあるソウルジェムに向け、空中に置かれた。
 ほむらが時を再び動かす。たったそれだけのことでさくらは、魔法少女から動かない人形へと変わる。魔法少女という人形の最後を向かえようとしていた。
「……さようなら」
 そうほむらがつぶやくと、世界はまた動き出す。
 全てが終へと、始まろうとしていた。
「えっ――!?」
 さくらは撃たれた反動で、廃屋ビルに吹き飛ばされた。そしてその影響でビルのフロアが落下した。
「……」
 まどかに迫った脅威のソウルジェムは砕かれた。これでようやく、まどかのもとへ行ける。
「まどかのところにいかないと……」
 ほむらは、来た道を戻るようにさくらに背を向け、歩き出す。
 さくらの死を確信しているし、コンクリートの天井が落下してきた。それだけでさくらは重症以上に、ソウルジェムは砕かれるかもしれない。
 予想外のことではあったが、結果的にさくらが吹き飛んだ方向はほむらとしては、良好な場所であった。だから、
「……」
 ほむらは振り向かない。絶対の自信は揺るがない。まどかへの脅威はまだ残っている――時間は進んでいるのだ。
 歩行速度を上げ、杏子に追いつこうと踏み込んだ時だ。

『……ねぇ? それで終わり?』

 死んだはずのさくらの声が、
「えっ」
 ほむらの耳に入ってきた。
 ――どうして、声が? ほむらが驚きと共に感じたのは、
「っ――、」
 左腕に生じた激痛だった。その痛みによって右手に持っていたサブマシンガンは手から離れ、ほむらの白い魔法少女服を赤く染める。左腕には切り傷、足元には黒い炎。
 振り返れば、
「生きていたというの……!?」
 首を傾げつつもこちらに歩いてくるさくらの姿があった。
「折角待ってたのに? たったこれだけ?」
 痛みの感覚を弱くしようと考えた。しかしながら、痛覚を消すのは諸刃の剣。痛みを忘れたら、もう人間には戻れない。ただの狂戦士になるだけ。
 ほむらの頭には――暴走したかつての美樹さやかの姿が思い浮かんだ。
「くっ!」
 この攻撃で終わると信じていた。絶対の自信が、
「そんなこと――、」
 この結果を生んだのだ。
 情報不足。そのことを理解していたはずなのに、ほむらの絶対の自信がそれを見落とさせた。
 もう自分がどうなるかなんて考える余地はないと、
「そんなことありえない!」
 左腕の痛みを限界近くまでなくし、再度サブマシンガンを取り出した。
「あは、あはははははあ!」
 ほむらは迫りくる黒い炎を、次々と回避していく。その黒い炎は、時に誘導し、時に加速してほむらに迫る。ほむらができたのは、黒い炎にサブマシンガンを応戦させること。
 炎にそれが効果的なのかなんて考える暇はなかった。
「ねぇ、どう思うこの身体? すごい? すごいよね? 人間じゃないよね? 人間でも動物でもなんでもないよね? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ?」
 電信柱の上に移動したさくらは奇声をあげ、ほむらを見つめていた。右手をくるり一回転させるとさくらの黒い炎が、同じリズムで一回転する。
 そしてほむらを指さすと、その黒い炎がほむらへと向かう。
「……」
 ほむらは、ひたすら回避に専念した。好機を探していた。対処出来るがどこにあるのかと。
「ねぇ? 痛いって何?」
 さくらがいくつもの黒い炎を召喚させては、ほむらに向かって狙い続けてくる。
「……」
 痛覚は既に遮断しつつある。だからこそ、『痛いって何?』という問いにほむらは答えることも、応えようともしなかった。
「……ふふふ」
 ほむらの逃げる様子を楽しむように電信柱の上で、さくらは足をばたつかせていた。さくらの額に存在していたソウルジェムは壊れていた。

 ――壊れている。

 確かに、何度ほむらが確認しても壊れているし、ほむらの一撃は届いていた。真ん中に綺麗な亀裂が走って、割れているのだ。
 しかし、さくらは動いている。
 ソウルジェム、それは魔法少女本体。それが壊れれば、魔法少女は死ぬ。死ぬはずであった。
「くっ!?」
 ほむらは、迷っていた。
 時間を止めても、また同じ結果なるのではないかと。そうならば、どうすればいいのかと。
「ねぇ、またやらないの? それ」
 さくらが、ほむらが装着している盾を指さした。
「なっ!?」
 盾の中にある砂時計を止めることにより、時間の流れを止める魔法。それが、暁美ほむらが唯一できる魔法少女の能力だった。それを知る人間はいるはずないのに、誰にも教えていないのに、
「ねぇ!」
 なぜ知っているのか――その答えが浮かんでこない。
「聞いてるの? 人の話はちゃんと聞かないとだめ……だよ?」
 混乱していくほむらに五メートルの黒い塊が、空中から襲いかかる。それは黒い炎がいくつも重なって生まれたものだった。
「これでさようならだよ!」
「――そんなことない!」
 さくらが右手を振りかざそうとした時、その動きが止まった。ほむらが魔法を発動させたのだ。落下地点から離れ、攻撃に転じようと動いた。
 時を止める魔法は攻撃にも、防御にも使える特別な魔法だ。
 そのはずであるのに、
「えっ!?」
 回避行動するために移動した場所で、ほむらは硬直した。さくらの姿を再確認したほむらに視界に入ったのは、
「えっ――、」
 元の形に直ったソウルジェムだった。驚きの感情で、
「どうして……!?」
 時の拘束は解除され、五メートルの黒い塊が先ほどまでほむらのいた場所に落ちた。
「ふふふ、魔女にはわたしは倒せない! 絶対倒せないんだから!」
 電信柱から降りたさくらは、再度大量の黒い炎を召喚する。そしてほむらへと高速に移動し、召喚した短剣を手にほむらへと振りかざしてくる。
「うっ!? えぅ!」
 その移動の速さにほむらは一瞬驚いたが、また一瞬で思考を改めて目を凝らした。
「ほら、はやく消えなさいよ。わたしの目の前から! 魔女は全て!」
 一振り、二振りとさくらの続く攻撃を見切り、ほむらは避けていくが、
「……っ!?」
 その場から離れることができなかった。
 ほむらの周囲にある黒い炎が拒んでいたからだ。
 さくらの魔法による拘束。ほむらは、そう考えた。ほむらが跳躍しようとすれば、すぐにそれらがほむらを狙ってくる。
 だが、さくらが短剣で攻撃する間、そして攻撃に転じようとする時には狙われない。自分への被撃を無意識に避けているのだと、ほむらは判断し、
「っ――、」
 さくらが攻撃に転じようとしたその一瞬で、
「今なら……!」
 ほむらが時を止める。時を止めれば、さくらの拘束は意味を持たなかった。
「あれ……? おかしいな」
 時を止めている間にほむらは、さくらから距離を取った。
「あぁ? そっちかぁ、ふふふ」
 さくらが周囲を見渡し、見失ったほむらを発見して、笑う。
「そーれ」
 さくらから十分な距離を取ったはずのほむらであったが、その距離を一瞬で距離をつめられた。

 ――この距離はまださくらの距離。ほむらはそう理解した。

「ねぇ、どこいくの?」
 高速の勢いがあるまま、さくらが短剣を振りかざした。回避は不可能と判断したほむらは、サブマシンガンを盾としてぶつける。
「ほらほら、そんなのなくなっちゃうよ!」
 さくらの言葉通り、短剣による衝撃を吸収したサブマシンガンは少しずつ溶け始めていた。銃口が曲がり、銃としてはもう使えなくなっていく。
「右手だけじゃないんだよ!」
 さくらの右足がほむらのお腹に抉るように当たり、
「くぅ!」
 蹴りの衝撃でほむらがビルの壁にぶつかった。
「ほら、これで!」
 さくらがその場で高く飛び上がると、空中で黒い炎を両手に掴み、ほむらへ投げつける。
「くぅ」
 ほむらがそれに向かって、魔法で取り出したロケットランチャーを繰り出す。黒い炎とロケットランチャーがぶつかり、周囲に爆発と、白煙を巻き起こさせた。
 その隙に、ほむらはさくらの視界から消えた。
「もう、何も見えないじゃん。でも、数撃てばあたるよね?」
 さくらがその場で回ると、黒い炎がその動きと共に次々と全ての角度へと飛ばされていく。
「……当たらなければ大丈夫」
 ほむらが時を止める。
 白煙を魔法で吹き飛ばし、さくらから距離を取るために、ビルの三階に飛び込んだ。窓ガラスの割れる音と共に、ほむらはさくらを見えるよう直ぐ様反転する。壁を背にしたその位置は、さくらの視界から外れる位置だった。
 隠れていても、いずれ気付かれる。
 だから、スナイパーライフルを取り出し、伏せた。
 後はさくらの額のソウルジェムを狙うために、照準を調整するだけだった。
「……ダメならもう一度壊すだけよ!」
 ほむらが引き金を何度も引く。弾が空中へと止まる。スナイパーライフルを外に投げ捨てると、さくらの様子を見るために移動を開始した。その場所は、さくらの後方に当たる場所で、先程撃ったスナイパーライフルの位置――正面の廃屋ビルだった。
「……」
 時が動き出すと、同時に猛獣のような叫び声が鳴り響いた。
 攻撃は当たり、さくらは吹き飛んだ。
 だというのに、さくらは、すぐに手をついて起き上がってくる。
 ほむらの頭に過ぎったのは、『本物のゾンビ』というバケモノであった。
「ふーん、そっちにいるんだ?」
 さくらはほむらの気配を感じた場所に振り返った。文字通り頭だけが、ほむらのいる真後ろへと回転させていた。
「っ――、」
 額のソウルジェムが割れていることを確認すると、ほむらはビルの中を走った。
 先ほどと違うことはなんだ、どう変わった! 思考を開始すると、脳内に浮かび上がるのは、さくらの頭から血を飛び散らせながら、流していることだった。スナイパーライフルの弾は、ソウルジェムを貫通し、頭蓋骨までも貫通させていたのだ。
 それでもなお、さくらは止まらない。
「私には、だめなの……!?」
 ほむらが表情を曇らせる。
「うっ!」
 暁美ほむらだけが、動ける時間がまた流れる。
 新たな狙撃ポイントから、覗いたさくらは笑っていた。その表情に裏表もなかった。綺麗な微笑み。黒い炎も召喚せず立ち尽くすその姿は、ほむらの行動に興味を持って楽しんでいるかのようであった。
 ほむらは目の前の少女に、少しずつ恐怖を感じ始めていた。魔女でも、魔法少女でも、ましても人間ですらない存在が目の前にいる。それが信じられなく、恐怖した。
「これもダメ!」
 一発、二発とさくらの額のソウルジェムを狙撃する。
 三発目の狙撃と同時に、時が動き始めた。
「はは、これで何回目だろうね?」
 相も変わらず、さくらは生きていた。
「くっ」
 ほむらは、ある考えが浮かびつつあった。
 しかし、それは同時にそんなはずない、と自分に言い聞かせる、ただの妄想だと、思考をかき消した。

『ソウルジェムだけが本体じゃない』

「何かわかった? わかったかな? わたしは魔女には負けない。負けられないんだから! 全て、全て壊す。全て魔女はわたしが倒すんだから!」
 さくらが言い終える頃には、ソウルジェムは元の形に戻っていた。
「くっ」
 ワルプルギスの夜以外に、負けてはならない。
 ワルプルギスの夜にも、負けてはならない。
 だから、ほむらはここで立ち止まるわけにはいかなかった。
「超再生能力というのなら、再生できないまで破壊すればいいだけよ!」
 その言葉を聞いてさくらがくすりと笑った。その笑顔の意味はほむらにはわからない。
 ほむらはビルから飛び出すと、魔法で地上に大量の重火器を取り出した。
 それは本来ワルプルギスの夜を足すために用意してきたものだった。
「……それをするだけよ」
 ここでさくらに負ければ、ワルプルギスの夜と戦うことすらできない、出し惜しみはしない――そうほむらは答えを出した。
 地上を走り、撃ってはさくらから距離を取る。それの繰り返しだった。
 それに対抗するためさくらが、黒い炎を飛ばしてくる。さくらはほむらの攻撃を避けようともしなかった。応戦はするが、防御はしない。それはまるで自分の耐久値を図り、楽しんでいるようだった。ほむらには理解できなかった。
「あはははははは!」
 黒い炎による応戦は防御などせずとも、ほむらの攻撃を結果的に防いでいた。
「つっ……!?」
 攻撃と回避を続けているはずのほむらの服はさくらとは逆に破けて、流血していた。
「あれ……は?」
 回避した場所に見えたのは黒い炎ではなく、短剣であった。
 その時ほむらは黒い炎ではなく、短剣だと理解した。
「なら……!」
 時を止めて黒い炎全てに、銃弾を当てる形に配置をして、時を進めた。解かれたのと同時に黒い炎が甲高い音と共に、壁へ全て刺さった。
「ふーん」
 さくらがつまらなそうにほむらを見ていた。さくらの周辺には変わらず、黒い炎が宙に浮いている。ただ、その数は少しずつほむらによる銃撃の嵐によって減り続けていた。
「ほら、またいくよ。あはは」
 魔法力の低下!? ソウルジェムの酷使のし過ぎによる、弱体! それを好機として、
「……」
 再度狙いをソウルジェムに合わせると、
「あはははははははは!?」
 さくらは先ほどの倍以上の黒い炎を召喚した。
 ――ブラフ!? まさかっ!? ほむらの足が止まった。
「だんだんつまらなくなってきたなぁ?」
 手をくるりと回転させる。すると、一つ、また一つと黒い炎が増えていく。
「……っ!」
 あの攻撃は捌き切れないと、その様子を見てほむらは直感した。対抗する弾薬はもう存在しない。ほむらの防御用弾薬は限界を迎えつつあった。
 でも、大量の魔法の使用は魔法少女に莫大な影響を与える。
 一度のブラフが決心を鈍らせていたが、ほむらはついに決意した。
「これしか――、」
 やりたくないことだった。できれば、魔法少女としてせめて身体だけは救ってあげたかった。
「ない!」
 その考えを捨てた。ほむらの決意――それはソウルジェムを、その肉体を完全に破壊することだった。
 それがさくらを倒せる最後の、唯一の手段だとほむらは考えた。
 これがダメだったらと考える余裕はもうほむらには残されていない。
「……!」
 左手の盾を動かし魔法を発動させた。
 全ての時が止まる。ほむらの最後の攻撃が今動き始めた。
 取り出していて使うのを躊躇していたグレネード、ロケットランチャー、対戦車ライフル、軽機関銃、ショットガン、可塑性爆薬。全てが魔女用、ワルプルギスの夜用。魔法少女に向けて用意していないものばかりだった。それらの武器を撃っては走り、撃っては走った。
 ありったけの銃器全てを額のソウルジェムへと、その肉体へと向けていく。
「……これで最後!」
 さくらを照準に捉える。
 爆発の範囲、銃撃の範囲から外れる場所へ、ほむら跳躍して身を隠し、
「……!」
 時を再び動かした。
 雷鳴のような耳を劈く爆発音が、周囲に拡散していく。爆発により土埃が宙に舞い、突風を生じさせた。波紋の衝撃を周囲に拡散させる。
 その勢いは、次第に小さくなっていく。
「……」
 衝撃が収まり、ほむらが警戒しながら頭を出した。
 大きく空いた穴の中心点で、仰向けにさくらは倒れていた。服装は破れ、身体はぼろぼろだった。人間を構成している部分がほとんどイカれていた。超再生能力は発動していないように見えた。
「はぁ、はぁ……くっ!」
 それを確認したほむらが疲労感により、その場に崩れ落ちる。
 やっと終わったのだという達成感で満ちていた。
「……ふぅ」
 ほむらは一呼吸入れると、立ち上がった。そしてさくらの元へとゆっくり近づき、
「……」
 恐る恐るほむらがさくらの頭を、額を確認すると、さくらの額に存在していたソウルジェムは完全に砕けていた。そしてさくらの身体から、流れる血にキラキラと輝くソウルジェムのかけらが混じっているのを見た。
「……」
 確認のために揺さぶってみるが、動く気配はなかった。
「やぁ、さくらを殺してくれたんだね。ほんとにありがたいよ。ボクとしては、君もいなくなってくれたほうが、まどかと契約しやすくてよかったんだけどね」

 いつの間にか――キュゥべぇがほむらの後ろに座っていた。

「別に、あなたの為に殺したわけじゃない。それに次はあなたの番」
 振り返りながら、唯一弾薬が残っていたサブマシンガンを取り出すと、照準を向けた。
「知ってるかい? 彼女はイレギュラーな存在だったんだ。名前は『さくら』。まぁ、君たち魔法少女には、名前は特別な意味を持たない。それは君なら知っているだろう? 一応ボクが言いやすい名称としてね。話は戻るけど、なぜ『さくら』がイレギュラーなのかわかるかい?」
 キュゥベぇは尋ねられたわけではないのに、勝手に話を進めていた。それをほむらが知るわけがない。ほむらの認識はこいつが敵で、まどかが味方。それだけで十分だった。

COS4

「……」
 サブマシンガンの照準をキュゥべぇから離さない。逃がすつもりはない。
「それはね、よっと」
 キュゥベぇが近くの塀にのぼる。それに合わせほむらも照準を合わし直す。
「彼女は、『魔法少女でありながら、魔女であった』という点さ」
 キュゥベぇの一言により、ほむらのサブマシンガンの照準が揺れた。
「嘘よ……! そんなことありえない。あなたたち、インキュベーターが魔法少女に私たちを変える時、私たちは、ソウルジェムになる」

 ――ありえない。

 魔法少女は、ソウルジェム。魔女は、魔法少女の悲しみの塊。『あの少女は、最初から悲しみに囚われていた?』
 ほむらの頭の中が混乱でわけがわからなくなりつつあった。
 でも、私は違う。魔法少女は、魔法少女だ。
「そうだね。ボクもそう思っていたよ。魔法少女は、魔法少女だよ。それはあくまで彼女と契約する前までだね。そう、なぜかすっかり『彼女と契約したことを忘れていた』のだけど、たぶん、そういうことじゃないかな。そう、そのせいで一つだけいいことがあったよ、まどかと契約しやすくなったことだね」
「……意味がわからないわ」
 まどかの名前を聞いて、ほむらの手の揺れが止まる。例えキュゥベぇがいうことが事実であったとしても、やることは何も変わらないと、サブマシンガンを握る手に力を入れなおす。
「彼女は生まれながらソウルジェムに汚れを持っていたのさ。それが彼女の力であり、魔法少女である能力だね。そう能力だけでいえば、まどかに遅れを取らない」

 ――そんな存在しらない。

「だけど、彼女は魔女さ。魔法少女じゃない。人間の身体を持った魔女。そういう存在に近いのかもしれないね。 君は知っているようだし、魔法少女は魔女になるんだ。さくらとどういう違いがあるんだい? 君も同じ存在だよ」

 ――そんなはずはない!

「だから、君がどんなに頑張っても、君たちのいう平和な世界にはならない。さくらは惜しかったよ。もう少しで、君が殺されて、まどかと契約できたというのに」
 今まで何人の少女がこいつに! こいつさえいなければ……!
 ほむらはキュゥベぇの言葉に、怒りを感じた。
「そうしたのは全部あなたのせい。この娘は、私たちと同じ被害者。あなたはそんなことをいう資格なんてない!」
 ほむらはさくらを指さし、魔法少女の被害者だと訴える。
「資格かい? でも、本当のことじゃないか。君たちは、奇跡が叶って、ボクは君たちからエネルギーをもらえた。いい取り引きじゃないか」
「……っ」
 ほむらが怒りから気を紛らわそうと、下唇を噛む。
「君は、巴マミ、美樹さやか。この二人を救おうとすれば救えたんじゃないかな。それもボクが彼女たちと会うずっと前から」
 ほむらは救えなかったんじゃない、救わなかったんだ。それが無駄だと知っているからだ。
「……」
 かつては救った。でも、結果は何も変わらなかった。何も変わらない。結局誰かを助けても、
『助けたいまどか』は助からなかった。
「そうだね、いつだって君は答えない。でもね、結局そういうことはわかってしまうんだ。それは結局のところ君が『魔法少女』であるがためにね。つまりは……」
 サブマシンガンを強く握った。
「……何がいいたいの?」
 一体こいつに何がわかるというのだ。感情を捨てた生き物に、ほむらは悪態をついた。
「そうか、やっぱりそういうことなんだね。まぁ、だからといって別に、ボクは何もしないよ。いいや、暁美ほむら。君が何をしても変わらないってことをボクは知っているからね。この先、ワルプルギスの夜を君は、『一人』で倒さなければならなくなる。
 つまり、まどかは必ずボクと契約しないといけなくなるってことさ」
「……?」
 それは、まるで杏子自身が既に死んでしまうかのような言い方であった。
 ほむらは頭の中にキュゥベぇの言葉を聞いて一つだけ、思い浮んだことがあった。
 それは起きてはいけないこと。もしそんなことが起きてしまうのならば、今回もまた失敗。また、時を戻らなくてはいけない。
「どうしたんだい? ボクが一人といったことがそんなに気にかかるかい?」
「……」
「そうだよ、君はまどかを杏子に預けた。つまりそういうことだよ」
 キュゥベぇの言葉に、
「あなた、何をいって……」
 ほむらのサブマシンガンの照準がまた揺れ始めた。
 こいつにだまされない。でも、まさかそんなはずじゃぁ……!? 心が乱れていく一方だった。
「さくら。そう、彼女と同じような魔法少女がいないとは『別に誰も言っていない』ことだからね。もしかしたらってこともあるんじゃないかな。ボクはそういう可能性ってのは、よくわからないんだけどね、でも君たちはそういう言葉を、そういうことをよくするじゃないか」
 キュゥベぇの乗った塀の後ろから爆発音と、
「ほらね?」
 目に赤い刺激色がほむらの視界に入った。
「えっ……!?」
 ほむらは、声を出せなかった。脳裏に嫌なイメージが浮かぶばかりだった。
「そうだよ、ボクは君の言う通り、君たちを魔法少女にする。君は、この地球に何人の人間が住んでいるか、知っているかい? そして、その何人が少女であるかわかるかい?
 そう、こうやって。君が一人になれば、まどかはボクと契約しなきゃいけない状況に陥るのさ」
 爆発した方向は、まどか達が逃げた方角であった。
「無駄だよ、もう間に合わない。いかに君が『時を止められる』としてもね――、」
 キュゥべぇの言葉が終わる前には、ほむらはその場を既に離れていた。

☓ ☓ ☓

「……キュゥべぇに騙される前の……馬鹿な私を助けてあげてくれないかな」
「約束するわ。絶対にあなたを救ってみせる。何度繰り返すことになっても。あなたを必ず」
 それは――交わした約束の記憶。
 暁美ほむらは、それを叶えるため、また一人繰り返す。開かない扉を開けるために。

「……例え、あなた以外全てを犠牲にしたとしても」

あとがき

 約二年ぶりに初期原稿を見てみたのですが、誤字脱字の連続で……正直推敲していたのか! と自分にツッコミを入れたいほどの文章でした。
 修正、そして修正で、一部内容を変えないといけない事態となり、無料公開する際に出来るだけ直しました。大分物語を楽しめるものに直ったのではないかと思います。
 七年ほど前の原稿を見た時は、それこそ日本語が本当に怪しくて、よくわからない文字の羅列が多かったですが、今回はまだ日本語でした。とはいっても、誤字脱字や変換ミスといった低レベルのミスが多く、推敲の大切さを再確認しました。
 この失敗を活かして、今後は注意深く推敲を行い、より良いものを作っていきたいです。

 今後も作品を作り続けていくつもりでいますが、日々成長させていく私を応援してくださると嬉しい次第です。

サークル代表 日宮理李
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