[PR] 一戸建て
R.U.K.A.R.I.R.I | 【まどかSS】覚めない夢
About Circle Board Twitter Link Circle work Mail RSS facebook google+    同人サークル『R.U.K.A.R.I.R.I』のHPです。
ブログ内人気記事

他ブログ及び本ブログ最新記事


2013.06.08
内容はハッピーエンドの欠片すらない、非常に暗く、つらい物語となっておりますため、
そのようなものが好きではないかたはブラウザバックの方をお願いします。 


※Skype上で行われたまどマギSSコンペの参加作品、テーマは『銀河鉄道』です
 理想の自分、憧れの実像。
 まさにそんな人物が私の目の前に現れていた。
 ――鹿目まどか。
 強くて、優しくて、心強い正義の味方みたいな人だった。
 あの時、深い絶望の底から、色鮮やかな希望の花園へと導いてくれた。まだ、ここにいていいんだと思わせてくれた。
「鹿目……さん?」
 でもまどかは死んでしまった。私を守るため、この街の人達全員を守るために、その生命を使い果たしてしまった。
 私にはどうすることも出来なかった。泣き叫び、ただ手を握り、命の灯火が消えるその瞬間を見てあげる事しかできなかった。
「契約は成立だ。君の祈りは、エントロピーを凌駕した。さあ、解き放ってごらん。その新しい力を!」
 だから、私は彼女を救うために魔法少女になった。

 それが全てのはじまりで、

全てのおわりだった。

 まどかは素敵な人。
 ――なのにどうして、皆まどかを見習わないの?
 まどかは綺麗な人。
 ――なのにどうして、皆まどかを尊敬しないの?
 まどかは全て。
 ――なのにどうして、皆まどかじゃないの?
 皆、まどかになってしまえばいい。そうすれば、きっと救える。全てを救える。まどかを助けられる。ワルプルギスの夜だって、どんな魔女でも、邪魔する魔法少女でさえも、きっと倒せる。
 だって、まどかなのだから、なんだって出来る。
 ゴミが全てまどかになるんだよ? 無敵でしょ。
「そうでしょ? まどか」
 振り返れば、たくさんのまどかが私を優しい眼差しで包み込んでくれた。
 負ける要素はどこにもない。ありはしない。


 ――よしっ。
 まどかがカバンに、教科書等を仕舞いこみ始めたのを見計らって、
「あ、あの、鹿目さん」
 なるべく邪魔しないよう、静かに言葉をかけた。
「んっ、どうしたの、ほむらちゃん?」
 こちらをまともに見なかったが、まどかが答えてくれた。いつもと何ら変わりない態度に、脈ありと感じた私は、
「ちょ、ちょっと、い、いいですか?」
 更なる言葉をかける。
「別に大丈夫だけど、どうしたのかな? もう放課後だよ? 早く帰らないと“色々大変”だよね?」
『色々大変』という部分を強調したまどかの言葉に、確かにその通りだと思いつつも、言葉を続けた。
「――あ、あの、こ、これから時間ありませんか?」
 なるべく要点を抑えて、重大なことを伝えたはずだったのだけど、
「特別な用事は特にないよ。でもどうしてそんなこと聞くの? 仮にもほむらちゃんがさ、どうして?」
「ふぇっ!?」
 眉根を寄せた疑惑の視線を向けられた。私よりもむしろまどかの表情のほうが驚いている気もしたのは気のせいだろうか。
 とはいえ、まさか聞き返されるとは思いもしなかった。てっきり『イエス』か『ノー』で、返ってくるのだと思っていたのだけど。
 ……理由。
 まどかを誘う理由はたくさんあるけど、今はそれに答えるわけにはいかなかった。
 私が理由――インキュベーターのことを話しても、魔法少女のことを話しても、今のまどかは何も知らない、ただの女子中学生。頭がきっとついていけない。
「……」
 それにここでそんなことを話せば、二度と口を聞いてもらえないかもしれない。中二病、あるいは精神がまともじゃない人って、思われるかもしれない。教室の中には、まだたくさんの生徒が残っているから、ちょっとしたことでもおそらく耳に入る。変な噂が広まるのは間違いない。勘弁して欲しかった。
 これ以上のいざこざは……何が変わってしまう自覚がある。だから、
「え、えっと、そ、そのちょっと付き合って欲しい場所が、あ、あったので……、お願いできないかなぁと……」
 なるべく柔らかく的確な言葉で理由を告げた。あくまで私個人で、まどかは誘われただけ。そういう状況にしなければない。
 ――地を這うのは私一人で十分。
 まどかは、まどかでいてほしいから。
 再度自分の中で確認してみても、何も間違いない。大丈夫なはずだ。一緒に来てほしい場所があるのは、何も間違っていないし、身勝手な暁美ほむらが鹿目まどかを困らせた。そういう風に周りには見えるはずだ。
 誰もおかしいなんて思いもしないはずだ。
「んっ? 最後の方よく聞き取れなかったけど、今日はあれだよね。簡単に言うと、無理かなぁ」
 そういうと慌てたように目線を逸らされた。
「えっ!? ど、どうして? さっき特にないって、い、言っていたのに……」
 まどかの視線の先には、美樹さんと、志筑さんがこちらに向かってガンを飛ばしているつもりなのか、鋭い眼光を放っていた。
「ショ、ショッピングモール、そう。わたしたちショッピングモールに行くんだったよ。ご、ごめんね?」
 口元に人差し指を添えると、まるで今思い出したかのようにまどかが断りを入れてきた。言葉の勢いがないように聞こえた。確かに休み時間にそんな話をしていたのを耳にしていたけど、まさか最初からそういう予定だったのだろうか?
 それなら、私が別に一緒にいてもいいんじゃないかとも思いつつ、
「そ、そうですか?」
 俯いた。
「何かな? ほむらちゃんはわたしのこと信じられないの?」
「ち、違います!」
 否定の言葉とともに面を上げてみれば、既に鹿目さんは『じゃあ、またね』と手を振って、美樹さんと一緒に廊下へ出ていこうとしていた。一瞬だけ見えた顔はどこか冷めた……寂寥感の色を醸し出していた。
「あ、あの……!」
 そんな顔にするつもりなんてなかった!
 けれども呼び止める声は虚しく、もうまどかの姿は見えなくなっていた。
「……っ!」
 今日はタイミングがたまたま悪かったのだ。明日ならきっと一緒になれる。そう自分を慰めながら、手持ち無沙汰になった私は自分の席に戻ろうとして、
「おい、暁美」
「な、何ですか?」
 乱暴な声に振り返ってみれば、見下した目をした女子生徒がこちらを見ていた。
 ――嫌な視線だった。
 まるでゴミ虫を見るような、ひどい目。かつて、魔法少女の運命を知ったあの娘みたいな、深い絶望を感じさせる碧眼だった。違うのは金髪ぐらいだろうか。……そういえば人形がこういう色をしていた。
「あたしの代わりに、ゴミ捨てておいてくんない? あたしこれから、デートなんだよね」
 ……デート?
 そういう目をしているのに、ひどくどうでもいいことを女子生徒は口走っていた。口では希望をいって、態度では絶望を体現する。
 ……人形にはない感情だ。
「……」
 でもまどかとそういうことが出来れば、きっと素敵なことなんだろうと思う。だって、私の自慢の友だちだから。楽しい時間を永遠のように感じることが出来るはず。何でも、何だって出来る。
 折角楽しくなれるのに……どうして、帰っちゃったの? まどか。
「……?」
 無口だったのが気に触ったのか、視線が鋭くなっていた。今度は絶望なんかじゃなくて、確かな怒色を込めたものだった。人間らしい感情の変化といったところか。
 だから、これ以上不快な視線を送られてきても困るので、
「そ、そうなんですか? が、頑張ってください。で、でも、私は……」
 否定の言葉を告げつつ、自分の席へ戻ろうとして、
「はぁ、何? あんたまさかやってくれないって馬鹿なこと、言わないよね? おい――」
 甲高く、耳障りな怒鳴り声が聞こえると、
「無視すんじゃねーよ!」
 私はなぜか硬いアスファルトの地面を転がっていた。
「っ……!?」
 その勢いは何かにぶつかったという鈍い音が聞こえて、停止した。
 驚きが強かったせいか、痛みは後にきた。肘にどうやら、机の角がぶつかったらしい。少しぴりぴりとした痺れがした。でも、たいしたことはなさそうだった。勢いもそれで止まったようだし。そもそも痛みは魔法少女に取って意味を何も持たない。
 面を痛みに耐えるふりをしながらあげると、私を見下ろす女子生徒は、口端が上がっていた。それと私を助けようともしない他の生徒達も、とても楽しそうにこちらを見ていた。笑い声さえ、聞こえてくる。
 ――不快な気分だ。
 まどかを見習うべき、そう思う。まどかがいなくてよかったとも、思う。
 こんな姿晒したくない。
「ねぇ、暁美さん行ってくれるよね?」
 楽しそうな声を女子生徒が上げてきた。これ以上騒ぎを大きくするのは、学校生活に支障が出る。
「うぅ……、はい……」
 ゆっくり上がり、頭を下げた。
 こうすれば、もう何もされない。こいつらは操り人形が欲しいだけなのだから。
「ほら、早く行きなさいよ」
 予想通りの言葉がきた。
「……はい、行ってきます」
 時間遡行で戻った世界は、弱肉強食の世界。一言で表すなら、そんな世界へと変わっていた。学校中の生徒たちが、私をまるで汚物を見るような目で見てくる。
 どうしてそうなってしまったのかはわからない。転校初日から、既に私はそういう目で見られていたのだから。
 そんな中でもまどかだけは、やっぱり私に優しかった。それが唯一の救い、そして希望でもあった。
 あの暖かい微笑みがある限り、私はまだ戦える。
 だから、
「……っ」
 感情を殺して、ケラケラ笑う生徒の声がする教室の中、私は眼鏡を拾い上げ席へと戻った。
 机の上に置いたはずの通学カバンがどこにもないことなど、もう……どうでも良かった。


 私は乱れた服を整えながら、ゴミ箱を持って中庭に向かっていた。
「……」
 この矛先をまどかにいかせないためにも、私がこの役目を追うしかない。
 それに私ならいざとなったら、どうにも出来る。
 だけど、私がただの人間に本気を出すにはいかない。
「……」
 そんなことを思いつつ、出現させたゴミ処理機の中へゴミを投げ捨てた。
 ――本当にゴミが多い。
 まどかに誘われた場所で、他の女子生徒たちに囲われたのは記憶に新しい。『ごめんね』というまどかの台詞は、今でもはっきり覚えている。あの娘の悲しい顔も鮮明に覚えている。細めた目で頬を赤く染めて、涙をこらえている表情だった。そんな辛い表情なんて見たくなかった。
 だから、私はまどかのためなら、制服を脱がされて、どこかへ隠されようとも耐えた。個室に閉じ込められようと、教科書に解読ができないくらいの落書きをされようと別にどうでもよかった。
 まどかの優しい視線だけ感じられれば、他に何もいらなかった。
「……」
 でも、ゴミはゴミ箱に入れるべき。まどかをもっと敬うべきだわ。
 ……そうだ。人形が欲しかったんだ。古いのは壊れちゃったし、折角の機会だ。新しいのを貰いに行こう。
 そのうちの一つが増えるなんて、もしかしたら今日は素敵な日だったのかもしれない。そうだ。まどかとも話せたから、そうに違いない。
 口端が上がると――人形はすぐに見つかった。


 私は部屋に戻ってくると、巴さんに今日の報告をしていた。
 これはいつもの日課みたいなものだった。
「そうね、それはたいへんなことだったわね」
 私の苦労も何も知らないはずの巴さんが適当に相槌だけうってくるのが、少し癇に障るけど気にしないことにした。
 人形は、私の思う通りにならない。
 ――そうするように出来ないわけじゃないけど。それはそれ、あれはあれだ。そこまでの調整はまだ必要ない。
「巴さん、まどかを連れ込むいい考えはないかしら? 出来れば、確実性があるのがいいわ――」
 テーブルの正面に座っている巴さんを見つつ、紅茶を一口含んだ。
 始めて自分で入れてみたのだけど、巴さんに入れてもらった紅茶がいかに美味しいのがよくわかった。それぐらい味が違う。何だろうか、匂いは同じだけど、口に交わる味がない気がする。
「――ただ家族を巻き込むのはなるべく避けたいわ」
 口内に広がる甘さで、少し寂しさを紛らせつつ、耳に集中する。
「そうねぇ……、ロマンチックなものがいいんじゃないかしら? 鹿目さんも女の子だし、きっと好きだわ。それに暁美さんのことをもっと知りたくなると思うわ」
 なるほど、巴さんらしい意見ね。ある種盲点だった。魔女との戦いで空を飛ぶことはあっても、見ることはなかった。
「ねぇ、ロマンチックにも色々あるけど、どういうのがいいのかしら? 恋人はまどかみたいな人って決めているから、それ以外のロマンチック加減はわからないわ」
 そうね……と悩むように目を閉じられた。そういえば、巴さんは語る性癖、いえ乙女の癖があったわね。
「ロマンチックには色々あるのよ? それこそ、人の数だけってのがワタシの持論なのだけど……。そうね、」
 頭の中で一体どんな物語を考えているのだろうか。
「ワタシは花が咲き誇っていれば素敵だと思うけど――」
「でも、それは巴さんの想うロマンチックであって、まどかのものではないわ。
 だとしても、私の想うロマンチックが、まどかのものであることもないわけではないわ」
 うんと肯定の頷きを巴さんがした。
 それなら、
「私が出来る限りの演出をすればいいのだけど、私にできることなんて、数が知れているわ」
 できないことはないはずだけど、ここは無理をする時じゃない。まだ、あの魔女がくるまで時間は大分ある。
 ならば、
「巴さん、何かいいアイディアはありませんか?」
 素直に他人の力を借りればいい。少なくとも昔と比べたら、それは今ならずいぶんと楽だ。借りたいだけ、借りられる現実がある。
「そーね、ワタシが思うベストなのは星空を一緒に見上げることかしら。ほら、星空って宝石箱みたいで綺麗でしょ? 星の海だなんて表現もあるくらいなのだから、きっと鹿目さんも喜ぶし、一緒に見てくれると思うの。そういう題材の本もあるでしょ――」
 そして巴さんは言葉を続けていった。星の空を駆けていく鉄道のことを、星の海を泳ぐ流星群のことを、星の伝説として語り継がれる物語のことを。
 語り終わった巴さんに――ありがとう。私はそういって、ビーフジャーキーをテーブル越しに巴さんの口に咥えさせた。
 どうせならと、立ち上がって近寄ると、頭まで撫でてあげた。さらさらとした髪の質感が手のひらを伝わってくる。どうやって、この質感を維持しているのか疑問に思ったのだけど、そういえばこれも制御出来るんだったと、思考を遮断した。
「あ、ありがとう」
 撫でられた巴さんといえば、嬉しそうな顔をして、なおかつ物欲しそうな目で私のことを見つめてきた。口元には既にビーフジャーキーの姿はどこにもなかった。あったら、そういえば喋れないものね。
 でも、
「一体何、その顔は?」
 ――癇に障る。
 まるで今日の教室で私のことを見てきた害虫たちみたいな目をしていた。若干違うのは、欲しいと思う願望が入った汚い視線ということだろうか。
「え、えっとこれだけなのかなぁって、思って?」
 その上、上目遣いで私を覗きこんできた。
「はぁ――」
 いつから、この人形は私に意見できるようになったんだろうか。
「――なら自分の手で食べればいいじゃない」
 人間にはそのための手が与えられている。でも、人形はどうなんだろう?
 自分の口端が持ち上がっていくのを止められなかった。
「そ、それは……」
 俯いた巴さんはちょっと戸惑ったような感じで、私から顔を背けたいようだった。でもうまく身体を動かせないのか、逆方向へと首だけ動かした。
 だから、
「ごめんなさいね? もうそんなこと出来ないものね。ねぇこっちを向いてよ、巴さん。先輩なんでしょ。魔法少女の先輩でもあるんでしょ? どうして、私から目を背けるんですか? 何か問題ですか?」
「っ――」
 反抗的な顎を掴んで、私の方を向かせた。少し泣いてでもいたのか、涙ぐんでいた。――人形なのに面白い顔ね。
「ねぇ、巴さん?」
 でも、こっちに目線を向けてもらえなかった。
「ふーん。出たいんだ……この部屋」
 逃れた目線の方角は、唯一この部屋にある扉――玄関まで続く場所だった。
「……」
 無言の回答が返ってきた。
 返事を返せないって言った方がいいのかしら?
「はぁ――」
 しゃべりたくないっていうなら、それならあなたの存在意義が減るだけよ。
「……ならいいわ」
 乱暴に顎をはなしてあげると、私は人形部屋に一人で向かった。
「……ん」
 巴さんなら、大丈夫だろう。
 どうせ帰ることも、食べることも、飲むことも、何もできないただの人形、そう人形なのだから。
「ふ、ぅふふぅ」
 ――口端はしばらく下がらなそうだった。


 空間に出現させた扉を開くと、
「暁美さん、おかえりなさい」
 たくさんの人形たちが私を出向いた。弧を描くように設置した棚の上から、全員がこちらを向いている。
 扉のある位置以外の350度に設置したものだから、自分で言うのも何だけど――壮観なものね。
「……」
 どれもまどかに似せて作ったつもりだったのだけど、あまり似ていない。私の再現度が低いせいなのか、違う理由があるのかわからない。ピンク色のかつらをかぶせて、ピンク色のカラーコンタクトを入れて、見滝原中学校の制服までも着せても、全然似ていない。
 そもそも可愛くすら思わない。愛しさも何も感じない。
 ――でも本物がここにくるなら、人形なんてどうでもいいと考えてみれば、少し哀愁のようなものを感じる程度には愛がある、気がした。
「……ふぅ」
「おかえりなさい」
 人形の声が下の方からした。
 目線を下げれば、弧を描くちょうど中心点、部屋の中心地に人形が一つだけあった。
「……あぁ」
 そういえば、今日は人形が増えていたんだ。すっかり放置していたのを忘れていた。まぁ、まどか以外の事なんて、忘れていても仕方のないことなのだけど。
 まだカラーコンタクトが入っていないからか、碧眼が私にこんにちはしていた。憎たらしく思えるくらいに、綺麗な瞳。
「……あなた」
 この部屋に連れてきた頃は悲しそうな顔をしていたのに、
「暁美さん、おかえりなさい」
 今は綺麗過ぎるくらいの笑顔ね。嘘偽りの姿なのかしら、それとも別の思惑があってのことだろうか。とはいっても、人形なのだから関係ないか。
 思考なんてあってないようなもの。
「あなたのためにね、“エサ”を持ってきたんだ」
 お詫びのつもりだったのに、
「えっ……」
 私が魔法空間からそれを取り出したら、途端に嫌そうな顔をされた。その顔は戸惑いと拒絶にも見えた。ご褒美のはずなのによくわからない。
「はぁ……」
 折角ゴミを集めて作ってあげたのだから、無駄にはしたくない。そもそもありがたい処理をするために、この部屋に持って帰ってきたのだから、
「あなたのためなのよ? それはそれとして、私に今日は良いことしてくれたものね。ありがとう。とっても嬉しかったわ。
 あなたもそうでしょ?」
 私はしゃがみこむと、その一部を人形の口へとゆっくり差し込もうとした。
 でも、
「い、いやっ!」
 首を動かされ、折角作った一部が受け入れ口に入らなかった。折角綺麗に化粧した綺麗な頬が黒に染まってしまった。
 ――遺憾だわ。
 ゴミ箱にゴミが入らないなんて、本当のゴミじゃない。お願いしてきたのは、この人形なのにどうして拒否するの?
 首を傾しげつつ、私は魔法の力を開放して、
「ゴミを片付けるのが、あなた、あなたたちの役目じゃないの? だから、いるんでしょう? そのために、私に頼んだのでしょ?」
 紫色の発光色を人形に見せた。途端、周囲の人形たちから畏怖の念が篭った視線を肌にずっしり感じ始めた。
「ねぇ……?」
 他の人形たちはわかっているようだ。人形に拒否権なんてものはそもそも存在しないってことを。
「わ、わかった。暁美さんの言う通りにします」
 目を泳がせながら、こっちへ顔を向けた。
「わかった?」
「わ、わかりました!」
 わかっているのなら、最初からその通りにすればいいのに。
「そう、よかったわ。無駄にならなくて」
 だから、思いっきり口の中へ押し付けた。
「ぅ……!? ぃ……、ぁ……!?」
 人形のくせにどうして、こんなにも苦しそうな顔をするんだろうか。折角のご褒美が台無しだ。
「はい、これでおしまい。そうだ、これもあげるよ」
 いくつかついでに採取できていた水分を、人形の鼻をつまんで口へ流し込んだ。
「えっ、うえぇ、いぃぇぇ!? ぐぇ……!?」
 嗚咽混じりの声と共に、水分が人形から溢れ落ちていった。
 そのせいで新品だった制服と床が、黒と、茶と、黄色のよくわからないもので汚れてしまった。
 折角真っ白な部屋を用意したのに、これじゃぁ意味ないじゃない。
「あぁ、勿体無い。どうしてこんなことするの? ……はぁ」
 まぁ、いいか。また水分は採取できる。そろそろ、この部屋の人形たちからもまた別に採取できそうだから、自分たちでやってもらうかな?
「うーん……?」
 その場合は、配置を変える必要があるのか。
 手足がないのは違った意味で不便のようね。だからといって、戻すつもりはさらさらないのだけど。そもそもまどかに少しでも近づけてあげようとしたのに、全然近づかないのはなぜだろうか。逆に反抗的な態度を取られてしまう。
 いくらまどかが綺麗だからって、そんなことをされたら――汚したくなるじゃない。
 部屋の灯を消して、振り返り真っ暗となった闇に視線を送ると、たくさんの桃真珠が私を見て、
「いってらっしゃいませ、暁美さん」
 気持ちのよい言葉をくれた。
「行ってきます、まどか」
 だから、私は口端を上げて答えた。


 次の日――登校してみると、昨日私を殴りつけた女子生徒の姿はなかった。どうやら、昨日家に帰っていないとのことだった。心配だなとは少し思うが、いい気味だとも思う。
 神様は見ていないようで、きちんと見ているようだ。
 最近行方不明者が多いらしい。魔女の影響だろうか……? それともあの噂が原因なのだろうか。
 確か……怪談話は、少女の欲しい物をあげるかわりに、その全てを代償に与えるということらしい。
 これを聞いて思ったことは、一つ。インキュベーターが原因だということだ。
 でも少年少女がいなくなっていることを考えてみれば、少し違う気がする。魔法少女以外、魔法を使う人間は見たことがないのだから。
 ホームルームを告げる鐘がなると、担任の女教師が入ってきた。
「……」
 周囲に目を配ってみると、明らかに人数が少ない。
 私、まどか、志筑さん、男子生徒、女子生徒だけだった。
 担任の話によると、何でも休みを取っている生徒は腹痛や、頭痛で病欠とのことだ。集団食中でもあったのか、突発的なバイオハザードなのかはわからない。
 ――皆さんは気をつけてくださいね。
 そんな意味深い言葉でホームルームが終わった。


 放課後――まどかの席へと向かうと、運良くちょうど他には誰もいなかった。まぁ今朝の出欠状況からして、私とまどかを含めて五人しかいなかったのだから、少ないのも致し方ないことかもしれない。
「鹿目さん、星を見に行かない?」
「星……?」
 話題が話題だったのか、眉根を上げて驚いた顔を見せられた。これはひょっとすると効果抜群なのだろうか。だから続けて、
「――そう星。星はきっと鹿目さんをさらに彩ってくれるはずです。それにもしかしたら、銀河鉄道みたいな凄い流星が見えるかもしれません」
 流星群が到来するなんて、聞いたこともないけどはったりをかました。とはいえ、人形はそれなりに用意してあるから、可能……か。
「うーん、楽しそうだけど、わたし以外に誰かきたりしないのかな? さやかちゃん、仁美ちゃんやマミさん、」
 まどかは最後の人名を答えて、口元に右手人差し指を当てると、
「――でも、マミさん最近見ないね。どうしたんだろう。心配だよね、ほむらちゃん」
 大声で叫びたいほどに、笑いたかった。でも、それは出来なかった。
 だって――まどかは私の部屋にいる巴さんを知らないのだもの。
「そ、そうだね。巴さん心配だよねっ!」
 口端を抑えるのが必死で、取ってつけたようなリアクションになった気がした。
「うん……」
 でも、まどかの表情に何も変化はない。それが少しつまらなく思った。なぜだろうか? まぁいいか。単なる感情の変化だ。気にする必要もない。
「それじゃあ、夜に見滝原中学校の近くの丘で待ち合わせね。美樹さんと志筑さんなら、きてくれるはずだから」
 今朝美樹さんの人形はもう入手した。あとは志筑さんの人形だけど、それももうすぐ手に入る。
「そうなの?」
「えぇ、きっといい色を咲かせてくれると思うの」
 そういって、首を傾げるまどかを記憶に留めながら、私は席を離れた。
 ――志筑さんとの待ち合わせ時間に遅れる訳にはいかないもの。


 星の見える丘の上で準備を終えて、空を見上げてみると――。
「……あぁ」
 巴さんが言った通り、素敵そうな星が輝いていた。
 星の海、まさにスターオーシャンと呼べるものが空にはたくさんあった。都市部の眩しいイルミネーションにも負けず、よく見えるものだ。そういう場所をわざわざ設定したかいがあった。それにしても、
「……」
 銀河鉄道とはよく言ったものだ。流れ星でも現れれば、そういう風にもしかすると見えるかもしれない。
「……」
 とはいえ、こんなものには、ロマンチックの欠片すらない。巴さんの意見を汲み取ったからだろうが……私にはただの星空に過ぎない。
 だけど彩る空間としては、最適と思う。いい意見だったと思えるわ。
 空から視線を下ろすと、坂をまどかがオドオドした様子で登ってくるのが見えた。
「……ぁ」
 月明かりで彩られたまどかの姿は考えるまでなく、綺麗だった。
 弱気を装いながら、心も、身体も、私以上に強い娘。何度時を繰り返そうと、必ずそう思う。今だってそうだ。
「……あぁ」
 月の女神アルテミス、――純潔の女神。白のウェディングドレスを着たまどかが頭を過ぎった。

 ――ぐちゃぐちゃにしたい。

 口端に痺れを感じたけど、無視した。やっぱり本物はすごくいい。人形をまどかに似せようとしたのが、バカバカしく思える。
「こんばんは、まどか」
「こんばんは。あれ、ほむらちゃん一人だけ?」
 登り終えたまどかが周囲に目を配った。当然ここに人間は、私しかいないから、困惑するのもわかる。美樹さんも、志筑さんも一緒って誘ったのだし。だから、嘘じゃないよって準備していた、大きめの人形をゴミ袋から取り出した。
「それ……何かな?」
「うんと……、これは――」
 月明かりがあるとはいえ、見づらかったのかな? だから、説明しながら魔法の力を開放した。少し人形が光るように調整しながら、
「まどかにプレゼントしようって、作ったんだ。ほら、巴さんによく似ているでしょ? だから、ついつい巴さんって呼んじゃうんだ」
 それを見せた。
「ま、マミさん……?」
 そしてまどかの反応を待って、まどかに似せようとしたんだと付け加える。
 私がまどかに見せたのは、マミさん似の人形。ただ、本当はまどかそっくりの人形にしたかったのだけど、髪がカールしてて、うまく作れなかった。
「えっ、ち、違うよ! こ、こ、こんなの!」
 あとほら、美樹さんもあるよと、袋からまた違う人形を取り出し見せた。
「うぅ――」
 そのせいなのか青ざめたまどかがしゃがみこみ、途端に口元を抑えた。なぜなの?
「あぁ……」
 ――そっか。嬉しさのあまり、笑いが止まらないんだ。
「さぁ、行きましょう。まどか」
 そんな愛しいまどかに、手を差し伸べた。
「ね、ねぇ? 本当に、ほ、ほむらちゃんなの? そ、その人形動いたよね? まさか本物じゃないよね、ね?」
 何をこの娘は言っているのだろうか?
「大丈夫よ、まどか。人形は人形。動く人形があっても、私にとっては人形に何も変わらないわ――」
 人形を二つ、空に投げた。これで準備は全て完璧。
「――私は暁美ほむら。それ以上でも、それ以下でもないわ」
 それにね、
「それにね、私の部屋には志筑さんも既に待っているわ。後はまどかだけ」
 これからずっと一緒に人形遊びが出来るね?
 きっとまどかも同じ事を考えていてくれるんだろうなって、私は思う。
 だって私の――。
「えぇ、そうね」
――私だけのまどかだもの。
「ほら、綺麗な流星群でしょ?」
 空で黄色と、青色の光が閃光を放つと、私の魔力光色に輝いた赤い粒子が空から降り注いだ。
「これで、やっと流星群一緒に見れたね」
 私の笑顔を最後に、まどかがその場に倒れた。


まさか興奮のあまり倒れられるとは思っていなかった私は、まどかをお姫様抱っこしながら、なんとか部屋まで連れ帰ってきた。
「……」
 そのまどかは今寝息を静かに立て、とても気持ちよさそうにソファーの上でまだ眠り続けている。
「……」
 魔法空間の部屋を開けると、どうしようか迷った。
 ここに本物があるのに、これを取っておく必要はあるのか、処分する必要があると考えていると、
「う、うーん?」
 まどかの声が聞こえ振り返ってみると、
「おはよう」
 細く開いた目を擦るまどかの姿が視界に入った。やっぱり、綺麗。どんな状態でも作品になるわ。
「あれ、ほむらちゃん? ここ、どこ……?」
「私の部屋よ。一緒に行こうって言ったでしょ?」
 眠っている間に忘れちゃったのかな?
「まどか興奮して倒れちゃうんだもの、しようがないから、ここまで私が運んできたの」
「倒れて……んっ!!」
 さっきのことを思い出したのか、また口元を抑えだした。
「ほら、まどか。また興奮してもつまらないでしょ?」
 落ち着かせるつもりで、その柔らかそうな頬に触れようとして、
「い、いや!」
「えっ――まどか?」
 なぜか、手を叩かれた。それに何かじんわりとした痛みが指からする。スースーとした小さな刺激。外気に傷口が冷やされるような感覚だった。
「なにこれ……?」
 右手を目前まで持ってくると、確かにその感覚通りに指から血が出てた。それは間違いなく自分の傷口から、私の思考など関係なく、だらりと腕まで流れ続けていく。
「まどか……?」
 何が起きたんだかよくわからなかった。
「ねぇ、どうしたの?」
「っ……!」
 私の問いに答えるつもりがないのか、壁に背をつけて下唇を噛んでいた。その手には、折りたたみ式の銀色に輝くナイフが震えていた。
 もしかすると、あれで斬られたのか? まさかそんなことないよね? 私のまどかがそんなことするはずないよね?
「これ、まどかがやったの? 違うよね? 痛くはあまりないんだけど、変でしょ?」
「こ、こないでっ!」
 答えというべきなのか、ナイフが私に飛んできた。
 うまくそれをかわすと、その投げた張本人の顔が見えた。
 綺麗で、優しく、強いまどかなんていなかった。
 ただ怯えて、あのゴミクズの人形たちと同じ目をしていた。
 悲壮感、恐怖心、そんなものを私に与えてきた。
「――こんなのは、私のまどかじゃない」
 右手で空を割くと、赤が散った。


 指一つ動かなくなったまどかをベッドの上にゆっくりと下ろした。寝室として唯一構築した部屋だから、また一緒に星が見れる場所だった。
 その証拠に今も窓から、青い空が見える。
「……」
 白いシーツが少しずつ、少しずつまどかの血で、赤く、赤く染まっていく。
「……あはは」
 何か可笑しかった。笑いが止まらなかった。お腹に穴を開けても、頬をちぎろうとも笑うことをやめれなかった。かえってどんどん、どんどん胸の奥が苦しくなってくる。
 嬉しい? 楽しい? 気持ち悪い?
 よくわからない。
 でも、まどかの血と、私の血で交わって出来上がったベッドはどこか気持ちよさそうで、どこか気持ちよさそう、どこか気持ちよさそう、どこか気持ちよさそう、どこか気持ちよさそう、どこか気持ちよさそう、どこか気持ちよさそうだった。
「くふふふふふふ――」
 とうとう立っていることもできなくって、膝をついてしまった。それでも苦しさは弱くならなかった。笑うための筋肉なんてもう全て取ってしまったというのに……。
「楽しいでしょ、まどか」
 まどかは何も答えてくれなかった。
 ――でもいいや、一緒に寝よう? やっと二人きりだね。
「――! ――!?」
「えっ……?」
 防音、防熱、防寒。あらゆる障害をカットしたはずなのに、それは耳を抉るような音だった。
「嘘……そんなはずわ……?」
「――! ――!?」
 また聞こえてきた。
「こ、これは……」
 もう聞き間違いとかそんなものではない。頭のなかにその名称も、その姿も私に衝撃を与えてくる。
「――!? ――!」
 だって、それはワルプルギスの夜の叫び声だったから。何十回、何百回、何千回と聞いたのかわからない。耳障りな音だった。
 耳が劈く。
「まだ、そんな時じゃないはずなのに!?」
 でも、窓から遠く見えたその影は……確かにワルプルギスの夜だった。
 よくわからなかった。
 やっとまどかとの時間がとれて、今度こそ救えるはずだったのに、
「まどか……を救う? まど、か!?」
 私の目の前にいる人物は、何も答えてくれなかった。
 ただ、熱が奪われていくただの人形へと成り果てようとしていた。
 私が……私が……そうしてしまった。

 根深い絶望の中に、私はかつていた。

 あの時――目に写ったのは、炎が散り、血が舞う真紅の荒れた世界。
 その世界の中で、私はまどかを抱きしめていた。その温もりが徐々に消えていくのがわかった。一番大切な生命で、一番助けたい生命。そのはずだったのに、手遅れだった。
 もうひとりの自分。そんな存在がいるとは思えない。そうだとしても、まどかを傷つけたのは、私の力。そして壊したのも私の力。
 この事実は決して覆せない。起きてしまった過去に何も変わらない。
 ……過去をやり直せるから、良かった。そう思ってしまう自分が許せなかった。だから、私はあの時の私を忘れちゃいけない。
「……」
 あんなのは誰も望まない。まどかが助かっていたとしても、あんなのは私の知る鹿目まどかでも、暁美ほむらでもない。
 ――ただの悪魔だ。もう、人間と誇れるものすらない。
「……まどか」
 つぶやき、俯きがちな面をあげると、時間遡行が発動していた。
 今度こそ、絶対にあなたを救ってみせる。
 例え、誰かを犠牲にすることになっても、あなただけは救ってみせる。
 たった一人の友だちになら、この生命さえ捨ててみせる。
 だから、待っていてまどか。

 時間遡行が終わる――その瞬間まで口端に痺れを感じた。
スポンサーサイト
関連記事
Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...



この記事へのトラックバックURL

この記事にトラックバックする (FC2ブログユーザー)


この記事へのトラックバック
この記事へのコメント


管理者にだけ表示を許可する
 




他ブログ情報

ブログパーツ