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R.U.K.A.R.I.R.I | 【まどかSS】まどマギ劇場
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2013.05.02
イベント前ですが、短編のほうを。

もしもまどマギがドラマであったらという世界の物語――らしいです。





暁美ほむら(22) 天才子役だったが、最近は下降気味。
鹿目まどか(18) 素性がわからない歌手。
美樹さやか(19) 人気急上昇お騒がせアイドル。
佐倉杏子(21) 佐倉財閥のご令嬢。業界研究中。
巴マミ(23) アスリート。今年のオリンピック選手、金メダル有望。
上条恭介(20) 佐倉杏子との婚約が身内のみ公表されている。



 ――一寸先は闇。
 まさにそんな情景が目の前に提示されていた。
「えっと……、ここから降りるんですか?」
 はいと、明るい声でスタッフが頷いた。
 この人達は――馬鹿なんじゃないかって思う。それこそ、ここにCGを使わないで、一体どこに使うって思わないのだろうか。確かに監督がそういうのなら、仕方ないのかもしれないけど……自分の意見はないのか?
「……」
 二度見、三度見しても何も変わらない。目の前にあるのはサーカスが綱渡りするような細い通路で、スタッフが示すのは、その先端部分に用意された飛び込み専用といわんばかりの急ごしらえの雑な開けたスペース。
 ――プールの飛び込み台の方がまだマシにみえる。
「安全性は保証しますよ」
「そう……ですか」
 確かに落ちないように手すりもあるし、それなりの幅もある。そして命綱のワイヤーまでも装着済みである。
 だけど……!
「……っ!」
 誰が好き好んで、上下逆さまにジャンプしろっていうの? ただのドラマの撮影なのに、なぜそんなスタントマン顔負けのバンジージャンプをしろというのか。
 ……阿呆の集団か。
 文句を言いたげな顔が出ていたのか、むしろ出してしまっていたのか、スタッフから「監督の意向で臨場感を出したい」という言葉が追加された。
 ――臨場感?
 確かに実際に落下していけば、否応なしに落ちている臨場感は演出できるでしょうね! わかる? 普通じゃないのよ。
 でもね――ただの役者が飛ぶのよ?
「はぁ……」
 仕事を選べる状態でもなかったとはいえ、この仕事を選んだのは間違いだったのかもしれない。けれども、何の影響なのか視聴率だけはすごく高い。だから、再起を図る上では大成功……なのかな。
 仮にそうだったとしてもドラマの撮影のために、何度ワイヤーに吊らされたことだろうか。いい経験になったといえば、美談かもしれないけど……。
 とはいっても今回のこれは――予想外過ぎて、正直よくわからない。
「飛び込むタイミングができましたら、そこから録画開始します」
 スタッフが悪びれる様子も見せずにそう言葉をさらに加えてきた。言うのは簡単ね、言うのは……。
 このまま、下に落としてあげようかしら?
「はぁ――」
 苛ついていたとしても、そんなことは当然できないから、
「……そう」
 飛び降りるポイントの端に近づき下の方をゆっくり覗きこむと、マネージャーが両手を重ねて、激しく上下に動いていた。
「……あぁ」
 謝っているつもり……なのかな?
 別にマネージャーには何も罪はないし、私がお願いして仕事をまわしてもらったんだから、マネージャーに責任を追わせるのも癪に障る。
 だから、
「もう飛ぶから、準備してって伝えてもらえるかしら」
 スタッフがメガホンで下に叫びこんだ。
 なら……とことんやってやろうかしら――。
 私は端から後ろ向きになると、右足で大きく蹴りだしバク転する勢いで、背中から落ちた。
「ダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 本当の意味で……ダメだった。


「あぁ……あぁ……」
 ワイヤーの揺れが収まるまで、放心状態が止まらなかった。予想以上に怖かった。親戚の子供におばちゃんと呼ばれる理由もわかる気がした。年寄りは無理しちゃだめね……まだ二十歳近いけれど。
「はぁ……」
 何よあれ、どうしてバク転なんかしちゃったんだろう……。自分で自分を罰したい気分だった。罰なら、もう先払いでもらったんだけどさ。
 ――あれ?
「ぁ……?」
 目が泳ぐ中で、何か監督の私を見る視線がいつもと違う気がした。何か情熱的というか、高揚しているというか――。
「あっ!」
 ――死ねばいいのに。
 そのことに気付くのが遅かった。そりゃ、背中から落ちれば当然の結果だった。
「……くそう」
 どうやらOKだったらしく、ワイヤーの拘束が外されていく。
 用意された下着が覗かれたぐらい、
 眼鏡が異様に似合っている親父にエロい視線で覗かれたぐらい、
 それよりも多くの人に覗かれてしまったぐらい、私は別に構わないわ。
 仕事はもう選べないもの……断ることもできないわ。天才子役って言われたことなんて、疾うの昔のこと……。
「はぁ……」
 でも――当然その部分は放送されないのよね?


 収録もいよいよ終盤で、
「まどか……たった一人の、私の友達……」
 今日のために用意された舞台セットの上で、私はカメラに向かって肩越しに振り向く。
 するとすぐに正面と、右斜め、左斜めから眩しいライトの光が視線に入ってきた。
「……っ」
 演出上とはいえ……、いくら何でも光が強いんじゃないかと思う。カメラの位置が正直把握しづらい上に、こちらからだと足元さえ見にくい。
 それでもこの前のシーンよりは全然いいと思う。何よりスカートの中身を晒すことがない安全な床があるって、とても大事。
 一度の拍手から、二度三度と続き、
「はいっ、オッケーですっ! 暁美さんお疲れ様です」
 助監督から終了を告げる声が飛んできた。そういえば、監督はワイヤーアクションの撮影が終わってから見ていないけれど、一体どこへ行ったのだろうか。
 とはいえ、カメラを探しているうちにどうやら撮影が終わったらしい。
 目線は動かしたつもりはなかったから、大丈夫なのか。もしかしたら、目が泳いでいたから、テイクワンにされると思っていたのだけど。
「は、はぁ……」
 そんな気遣いなど、どうやら不要だったようだ。
「はい、お疲れ様です」
 息を吐きだして緊張をほぐすと、私はゆっくりと足元を見つつ舞台セットから、一段一段降り始めた。
 ライトの光がほとんどのないのも大して変わらない……か。
 登る時も大変だったけど、降りる方が数倍大変のようね、これ。
 デザインからして作るのが大変そうだけど、後でステージデザイナーに文句を言ってやろうとか思う。
 ――もっと役者に気を遣うべきよって。
 そもそも力を入れる場所がおかしいのよ。
「暁美さん、今日はお疲れ様です」
 やっとのことで舞台セットから、踏みなれた灰色の地面へと足をつけると、マネージャーがペットボトルの蓋を開けて待っていた。
 相変わらずの気配りだなぁと思いつつもその行為を受取り、一度紅茶で、喉を潤した。
 吐息とともに、口からペッドボトルを離すと、
「今日はこれでおしまいかしら?」
 マネージャーに返した。
 蓋を締めながら、歩きはじめたマネージャーの背を追うと、
「そうですね――」
 背中越しに、今後についての説明の言葉が聞こえてきた。
 なるほど、この後鹿目さんか――。
 ということは……そうか。
ここから……この作品一番の見どころが始まるのか。
 魔法少女としての運命を覆す大きな変化が――。
「あ、ほむらちゃん。お疲れ! 今日はこれでおしまいなの?」
 撮影室の入り口の側に壁に背を預けながら、その撮影予定の鹿目まどかが立っていた。その服装は既に見滝原中学校の制服。
「えぇ――」
 もうすぐこの制服も見納めになるのかと思うと、少し残念に思えてきた。
 私が着る機会はもう出番的に少ないから余計にね。ここんところは魔法少女服ばっかりで、今もそう。嫌いじゃないけど、どこかキャラじゃない気がした。
 もう少し大人しめなデザインでも良かったと思う。
 例えば――修道院服とかね。
「そうよ。ちょうど終わったところだわ」
 でも、監督の意向を変えるわけにもいかないわ。私は与えられた役を演じきるまでのことよ。
 ――それが例え監督の趣味が混じってあってもね。
「そうなんだ。わたしはこれからだよっ! あっ、知ってたかな?」
 鹿目さんは嬉しそうな顔をしていた。
 私にはいまいちその理由が理解できなかった。終わったのは私で、これから忙しくなるのが鹿目さんで、明らかに嬉しさがわからない。
 いつも撮影を楽しそうにやっているようには思えないし、一体何なのだろうか。
「えっと――」
 そんな鹿目さんがマネージャーと視線を合わせるように見ていた。
 まさか……確認のつもりか?
 最近やけにマネージャーと仲が良いみたいだけど、何か賄賂でも渡されているのだろうか。仮にも私のマネージャーだし、何年も一緒だからそんなものを受け取るなんて、あり得ないとは思うけど……。
 あったとしたら、相談してくるぐらいの信頼関係はあるはずだよね?
「……?」
 私もマネージャーに目線を送ると、あははと笑われた。
 ――大丈夫よね?
「ほむらちゃん、あ、あのね! わたしこの収録終わったら、フリーなんだけどさ、こ、この後予定あるかな?」
 はぁと私は深い溜息を耳に嫌ってほど聞こえる音で出すと、
「ごめんなさい。空いてないの。それに何度も言っているでしょう」
 鹿目さんが表情を曇らせた。だから、
「私は暁美ほむらよ? あなたにほむらちゃん、ほむらちゃんと呼ばれる所以はないわ。それはこのドラマ内の話の中だけにしてくれる? 私たちが会ったのは回数にして十回程度。そうね。回数自体は何も関係ないわね」
「そ、そんなぁ……」
 寂しそうな表情をしたって無駄だ。私の決意は変わらない。
「他人同士、必要以上に距離を縮める必要はないわ。そういうのは段々と詰めていくもので、急に詰め込むものでもないわ。これはそう、ビジネスよ」
 仲良くない娘にちゃん付けされるのはおかしいでしょ。幼馴染の友だちにさえ、呼ばれたことないわ。
 それに……ドラマのほむらじゃないけど、私はあまり自分の名前が好きじゃない。愛称ならかまわないけど、ほむらだけはダメ。許せないわ。
「それじゃ――お疲れ様です」
 私は感情を殺した声を出すとマネージャーと共に、撮影室から退室した。
「ぅ――」
 無言の何か言いたげな視線を感じたけど、無視した。


「えっと、控え室はあっちよね?」
「はい、そうですよー。忘れちゃったんですが?」
 違うと首を振ると、鹿目さんのことが頭の中を過ぎった。
 そういえば――鹿目さんが誰かといるところを見たことがないなって。
 さっき一人でいたから、より印象強いんだろう。
 普通は一人なんてありえない。普通は二人以上でいるはずなんだ。
 いるべきもう一人――鹿目さんのマネージャーを一度も見たことがなかった。
 仮にも鹿目さんは新曲を発表すれば、必ずランキング入りするトップシンガーであるはずなのに、その過去を知る人物は調べてみてもいなかった。マネージャーの存在すらわからない。
 ――謎のトップシンガー。
 響きはかっこいいが――奇怪な話ね。
 テレビにも出ずに新曲だけ出す音楽家。
 その影響で鹿目さんは、かなり噂のたつ人物だった。羨ましくも思う。
「それでですね――」
 そしてこのドラマだ。
 謎を秘めた人物がどうしていきなりテレヒに出るのか。それも音楽番組でなくドラマ撮影にと。
 雑誌やネット上で色んな憶測が出ていたが、いずれも答えは出ていない。
「えっと、聞いています――あぁ、これはいつもの――」
「……」
 マネージャーと話し込んだこともあるけど、やっぱり近くの人であっても、わからなかった。監督でさえ、曖昧だった。
「明日ですが――」
 一度考えだしていたら、マネージャーの声が聞こえなくなっていた。まぁどうせ後で、メールで予定を送ってくれるし、大丈夫だと思う。
 それぐらいのことはきっとマネージャーもわかっていることだろう。それはそれでどうかとも思う。
「んっ……」
 でも、奇怪さは他にもあった――あの娘の瞳だ。
 何かあの瞳に見られると不快な気分でいっぱいになった。背中が寒気でいっぱいになる。今すぐにでも隠れたい気分にさえ陥りそうになる。
「……」
 はじめはあんな感じじゃなかった。
 彼女にはじめて話しかけた時はおどおどして、瞳の中に恐怖の色を隠しているような小動物みたいな娘だった。いつも下を向いて、俯いて、何かをぶつぶつぼやいて――言ってみれば、暗い娘ように思えた。
 それが……どうして、こんなに明るい役を? そんな風にその時は感じていた。
 だから、テレビに出てこれなかったんじゃないかって。
 そのことに対してなら、不快な気持ちもよくわかっている。鹿目さんの瞳は、悩み落ち込んでいた私のようだったから、見るのが嫌だったんだ。
 だけど――それが今どうして、こう……明るくなったのだろうか。
 彼女に何か転機でもあったのだろうか。そういう浮いた話は何一つ入ってこないから、あり得ないはずだけど。
 あの明るさは――ドラマの中の鹿目まどか。そう勘違いしてしまうぐらいの変化だった。まるで生き写し。その変化の現れなのか、しばらくして彼女の方から話しかけてくるようになった。意外な感じがして困惑するぐらいだった。
 そういえば――そのときには、もうちゃん付けだったような……?
「……ふぅ」
 寒気を感じるようになった今は、話すのだって、彼女が一方的に話すだけで私は聞いていない。相槌もしないのによく続けるものだと思う。聞いてはあげているのだけど、どうしてだか、歩み寄りたくなかった。
「ごめんなさい、聞いてなかったわ? えっ――」
 もうすぐ会わなくなる娘のことを考えていても無駄かと、マネージャーの方を向いてみたら、微笑していたけど何だったのだろうか?


 廊下を歩いていると、出口方向へ向かう巴マミの姿を見つけた。
「あれ、巴さん上がりですか?」
 肩越しに振り向かれると、無表情でこくんと頷かれた。相変わらず、綺麗な姿勢の取り方。どうやったら、そんなにもびっしりとしたものを構築できるのだろうか?
「お疲れ様です」
 その言葉に、
「お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします」
 今度は振り返えられ、それも深くお辞儀をして、去っていった。立ち振舞が完璧すぎる。どこぞのお嬢様って話も噂で流れたりするけど、そんな人がこういう業界やスポーツ業界に手を出すものだろうか。
 噂が立つのはまぁあまり語らないからだと思うけど……、このドラマのキャラクターをよく演じられるなぁって思う。
 ――頼りにされる先輩。裏表のない人間。
 外見はスレンダーですごく美人なのに、服を脱いだらすごいってのはよくわからない。もちろん、綺麗なボディラインを保ち続けているのだろうけど、オリンピック選手って、あんなに筋肉質なのかしら? さすがトップアスリートというべきなのかしら。
 そうとはいっても、別にむちむちじゃないのが、余計に意味がわからない。
「……はぁ」
 自分の肉をつまんでみても、力んでみても巴さんのようなムキムキしたのは現れなかった。
 マネージャーも同じ事を思っていたのか、はにかんでいた。


 マネージャーと別れ、控え室に入ろうとしたら、話し声が聞こえてきた。
 そういえば、今日は珍しく魔法少女全員キャストがいる日だったっけ。
 耳を澄ましてみれば、聞き慣れた声がした。
「ねぇねぇ、杏子ちゃん。これから遊びに行こうよ? 絶対楽しいからさ、ほら疲れてもちゃんと休める場所あるしね? おすすめだからさ――」
 あぁ、またこの娘やっているのか……。
「はぁ……」
 飽きないものね。美樹さやかの押しが果たして、佐倉杏子に届く日がくるのか……。いえ、こないわね。
 こないだ、はがきが来ていたこともあるし、明らかに美樹さんの言葉には何か裏がありそうだ。私だったら、絶対に行かないし、佐倉さんのことだから、特別な理由がない限り行かないだろうとは思う。
「ですから、美樹さん。あたくしいつもお時間がありませんの。わかってくれません?」
「えぇ? ごめん。全然わかんないや。だから、行こうよ」
「……お疲れ様です」
 そろそろ仲介に入ったほうがいいだろうと、扉を開けると、案の定佐倉さんが明らかに疲れた顔をしていた。
 確か……出番がこれからあるってのに……、何てことを美樹さんはやってしまったのだろう。
 とはいえ、他人のことなぞ知ったことない。役者は役割をただ演じるのみ。
「佐倉さん、もう少しで収録でしたっけ?」
「えぇ、そうですわ」
 えぇー、じゃぁ終わりじゃんと美樹さんが嬉しそうな顔をした。
 ちょっと癇に障ったので、
「佐倉さん、こないだのはがきの件なのだけど――」
 とわざとらしく言いづらそうな表情をしながら、
「今日も迎えに来るのよね、彼」
 口に出した。
 初めは私の言葉に何のことか理解していなかったのか、ぽかーんと唖然とした表情を一瞬見せた佐倉さんだったけど、あぁと口に出すと、
「そうね、そうですわ。暁美さんよくご存知ですわね」
 表情を和らげた杏子さんが言葉にした。
 ――気付けたようね。
「えっ、何のこと!?」
 数秒の無音の後、
「あたくし、上条さんとこの度結婚することになりましたの」
 頬を赤く染めた佐倉さんが言い放った。
「えっ、恭介!?」
 誰からも聞いていなかったのか、驚愕というよりかは人生の終わりみたいな表情へと美樹さんが変わっていく。
 周りを少し見なさいよ……。
「美樹さん、言わなかったかしら? あたくし達もう婚約済みなのですわ」
 佐倉さんの左手薬指にある宝石がついた指輪が光に反射した。
 以前はなかったはず……あのはがきの原因はそこにあったのかもしれない。
「佐倉さん、おめでとう。式は行くことができなくて、ごめんなさいね」
 そこまで特に仲が良いわけではないから、気が引けていたこともあるし、第一にその日は予定があったのだ。
「えっええぇええ――」
「それじゃぁ、二人共とお疲れ様。次回揃うのはクランクアップの時ね」
 私達が控え室から出ていった後も、美樹さんの叫び声が聞こえ続けていた。


 いいの? という言葉に。
 一緒にちょっと居づらくてと、佐倉さんに見送ってもらえることになった。気持ちはわからなくもない、というかそうしてしまったのは私の責任だ。
 だから、断る理由も特になかった。
「……んっ?」
 一緒に入り口まで歩きはじめたというわけだが、佐倉さんの手には見られないものがあった。言い争っていた時にはなかったような?
 くまのマスコットキャラクターが真ん中に描かれた――白い紙袋。
「それは何……?」
 ご令嬢と聞くから、まさか大量の紙幣……はないわね。
「あなたに渡して置いて下さいと頼まれたものです。巴さん自身はトレーニングがあるために帰りましたけど」
「頼んでいた……あっ」
 あぁ、そうか。お願いしていたんだった。
「はい、どうぞ。割りとこれ重たいですから、気をつけて下さいますか?」
「ありがと――、本当ね。重いわ」
 結構な量が入っているのかな?
 貧乳が好きな男性が多いというが、さすがに私ももう少し胸囲が欲しいななんてことを考えて、巴さんに相談していたんだった。
 それがこれ。
 食事制限している彼女があんなにも美しいプロポーションを保ち続けているその理由の一つ。
 ――仕立て弁当。
 特注の場所なので、教えられないが品物だけはと言われていた。
「何だか物欲しそうな顔をしていますけど、大丈夫でしょうか?」
 心配そうな顔を佐倉さんが向けていた。
「えぇ、ちょっと興味があるものを貰えたので、帰ったら楽しみだなぁと」
 そうですかと、そそくさと前へ歩いて行ってしまった。歩くのが相変わらず早いな。
 巴さんも背筋がぴんと伸びているけど、佐倉さんのはまた別なものね。さすがご令嬢というのか、オーラがある。
 近寄りがたいというのかしら? そういうものが見える。
「どうかしましたか?」
 ――主食がカロリーメイトってのがあり得ないけど。
「いえ、なんでも」
 歩調をあわせるように隣に行くと、入り口を目指した。


 撮影所の入り口には、明らかに不審者未遂の上条恭介がうろちょろしているけど、大丈夫なのかしらね……。確保されていないことを見るに、大丈夫なのだろうけど。
「……あれって」
 事情は関係者全員(美樹さん以外)が知っているはずだし、本来であれば部屋で待っていればいいのと思うのだけど、断っているのよね……。
「恭介さんですね――可愛い」
 表情を赤らめた佐倉さんの顔はいつも以上に大人びて見えた。これが令嬢の姿なのだろうか。
「可愛いねぇ……」
 なら、しっかりしてよと、私はそう思った。


 魔法少女まどか☆マギカは視聴率も20%をついに超え、無事に最終回を迎えることができた。
 私としてはもう少し続けたい、もう一人の暁美ほむらを演じてみたいと思うこともあったけど……致し方のないことだわ。
 監督の話では、映画化の企画も考えてはいるようだけど……。その頃には佐倉さんはハネムーン期間でどこにいるのかわからないし、巴さんはオリンピックの準備に忙しいようだ。
 何をしているのかわからないのは美樹さんだけど、コメディ番組でよく見かけるから仕事はしているようだ。
 あれ以来――美樹さんの顔に生気がない気がするけど、どうしてなのだろうか。テレビ越しでもよくわかる。
 でも……それでも人気が相変わらずなのは、さらにわからない。私には魅力がこれっぽちも見えてこない。それがわかれば私も真似をしたいのだけど……。
「よしっ――」
 テレビを消した途端、電話の呼出音が激しく鳴り始めた。
「また、鹿目さんかな……」
 魔法少女まどか☆まどかの収録中でも何かとこうやって、電話をしてきていたけど……、終わってからはしつこく電話がなるようになった。感覚としては――十分刻み。
――アドレス交換をしなかったのがせめてもの救いか。
 宅電の情報はどこから漏れたのか。
 確か鹿目さんは誰でも知っているよって、答えてくれたけどそんなことはないはず。ファンから直接電話がくることだってないのに、あり得ない。
「……」
 元より宅電なんか出る習慣はないから、基本的に留守番仕様。解約すればいいのにとマネージャーから口酸っぱく言われているのだけど、面倒くさくて結局そのまま。いずれは何とかしないと無駄なんだけどねぇ。
 連絡はまぁマネージャーからはいつもメールがほとんど。滅多にこない携帯電話への電話はもちろん出るようにはしている。だいたいは、マネージャーが寝坊しました、寝坊しました、寝坊しましたぐらいなんだけど――。
 そんなことを考えている内に、何コールか続いた後、留守番機能が動き出したのか家の中が突然静かになった。
 ――慣れって怖いなって思う。
 電話の呼出音が雑音にしか感じられなくなるなんてね。自分でもあり得ないって思う。
「んっ――」
 宅急便だろうか……?
 家の呼び鈴がなった。そういえば、マネージャーが後で訪問するって、メールが着ていたような……?
 茶菓子の買い置きはあったかなぁと、
「えっなん――」
 扉を開ければ、
「来ちゃったっ――」

 何かで汚れた鹿目さんの姿がそこにはあった。
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