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R.U.K.A.R.I.R.I | 魔法少女まこと☆マギカ 3rd step
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2013.04.02
魔法少女まどか☆マギカのスピンオフ作品としての3rd step。

目が見えない少女が希望をえがくとき……とは。

-3rd step-

「うーん……暇だなぁ」
旅行に行くってお母さんたちが家から出ていってから、二日ほど経過した頃……。
私は居間のテーブルの上にラジオを置き、静かに嵐が通り過ぎるのをただ待ってた。
乱れながらラジオから聞こえてくるノイズ混じりの音は、何だか面白かった。普段聞き慣れない音だからってのもあるかも。
こういうことがあるから、テレビと違ってラジオは楽しい。
楽しさの一つなのかもしれない。
その音に加え聞こえてくるのは、雨が窓ガラスを叩く音。土砂降り具合が音でわかる。それと風の吹く音も同時に入ってくる。普段も多少聞こえてくるのだけど、それ以上に大きな音。叩きつけてくる音ってのかな。
どちらかといえば、雨の音の方が強い。ラジオの音も正直なところをいえば、あんまし聞こえない。
「はぁ……」
――憂鬱だなぁ。
雨は天からの恵みっていうらしいけど、私にとってはただの悪でしかない。音が雨音しか聞こえないなら、普段聞こえる車の音も人の音も微々たるものだもの。
だから危険を察知するのが難しい。
そういうこともあって、嵐の日なんて関係なく外出たくても、外に危なくて出れるわけない。
とある雨の日にお母さんの服を掴んで歩いたことあるけど、普段歩く場所がまるで知らない不思議な世界に迷い込んだみたいに錯覚しちゃうくらいに違った。
それと……床なのか土の上なのかわからないけど、とにかくやたらと滑る。それと知らない感触が足から何だかする。あのねちょねちょする弾力ある感触は嫌だった。
病院でたまに聞こえてくる音がする。それが何の音かはわからないけど。
だから、私はラジオのボリュームをあげた。例え聞き取りづらい音になってたとしても、聞こえなきゃ意味ないしね。
ラジオの音がその雑音に負けないように再生されると、
「んっ」
チャンネルをひねってかえた。
音楽が流れたり、誰かのインタビューだったり。政治の話とか、本当に私に関係のない話ばかりが流れた。
今は、
『~は……ます』
 台風が通り過ぎるのは今日の夜ってこと。――天気の話だった。
あのとき、病院で聞いていた局地的な異常台風らしい。
何が異常かって、確か数年ぶりかの凄まじい暴風雨とかなんとかで……。道路とか川とかすごいことになるらしい。
どういう風になるのかさっぱりわからないけど、氾濫というのになるみたい。水が溢れ出るとか言ってるけど、どういう感じなのだろうか?
そういうこともあるからなのか、戸締りをきっちりするように、また川や海などの水辺に近い人は避難所に避難するようにと警告が出されてた。
「うーん……」
戸締りなんかは、どこかを開けたつもりがないので問題ないとは思う。
どこも開けてないなら、たぶん大丈夫だよね? 
さすがに明日の朝までには暴風雨は過ぎ去ってるようだし、病院に行く時はたぶん大丈夫だろう。
「病院か……」
病院に何も連絡してないけど、たぶん大丈夫だよね? 定期検診だし、大丈夫だろうと思うけど……。こないだの定期検診で旅行に行くってつい口走ったとかって、お母さんから聞いたから、もしかすると驚かしちゃうかもしれない。
『あれ旅行行ってなかったの?』みたいな。
「ふふ」
 先生の驚いた顔が見れないのは残念だな。どんな表情で笑うんだろうか? いや、笑うのは私か!
 じゃぁ、何の顔? 驚いた顔でいいのかな?
 誰もいないから私だけの声がした。乾いたような笑い声が。
「……」
 思い返せば、こういう一人で過ごす時間は最近滅多になかった気がする。ずっと家にいることもあるけど、大体お母さんかユタカの近くにいた気がする。
「ふぅ……」
 別にそうしたくそうしてたわけじゃなかったけど、もしかしたら理由があるのかな。
――知らないうちに学校に行きたいとか思ってるとか?
ユタカの側に入れば、学校の話が聞けるし、お母さんが入れば、学校のことを忘れられる。
 でも……。気のせいかな。
たぶん、そうだと思う。
 ちょっと一人が寂しいって思ってるだけなのかもしれない。
 憂鬱なのはいやだなぁと、一口。
「やっぱ、りんごジュースは美味しいな」
 テーブルの上にコップを置いた。
 何杯目になるだろうか。わからない。
そのたびに、幸せな気分になれるのだからこの飲み物を作った人はすごいと思う。
「りんごジュースか……」
 はじめて飲んだのはいつだったかなぁ。
子供のころ?
 今も子供だけどさ、昔に飲んだはずなのにいつだかわからない。忘れてしまったのか、成長とともにおいてきたのかな?
 そういえば、りんごジュースを飲むときは……こうしていつも何かを待ってる時かもしれない。
 小さい頃、何も言わない私を気遣い、親戚の人からりんごジュースを出してもらったことがあったような。『飲みな、食べな』。言われるがままに飲んで食べて。お母さんたちが帰るのをただ待ってたような。
 今はこうして、ただ一人。
 ちょっぷり寂しさがまだしてきた。
「あはははっ」
 もう親戚の人に無駄な気遣いさせてしまうこともない。私がそれを嫌に感じることもない。
 こうやって、一人なのはすごく気楽。
確かに不自由だけど、いい意味で慣れっこ。悪い意味で戒めだけど。
「……?」
ただ――、不安な場所は一箇所だけあった。
雨漏りでもしているのか、お母さんたちが出発してから濡れてる場所があった。廊下と居間の中心地点と思われる場所。そこの上を歩くたびに足に冷たい感触があるの。どこからか水が流れてきてるみたいだった。
水を出しっぱなしにしてるつもりはないし、壊れて危ないから近づかないでと言われた場所もないけど、何なのだろうか?
 暴風雨が関係あるとも思えないし……。排水管が壊れてしまったのだろうか?
「よっと……また濡れてるんだろうな」
原因を調べることも出来ないし、お母さんたちが帰ってきたら見てもらおうと思い、洗面所に向かうことにした。
床を何度拭いたかもうわからない。
「ふふん」
雑巾らしきものを取りに行かないと。
雑巾じゃなかったら、お母さんにもしかすると怒られるかもしれない。でも、たぶん洗面所にあったから大丈夫……だよね?
「あ、あれっ――」
 嘘っ……! 
急に立ち眩みがきて、危なく倒れそうになるのを壁に手をおいてなんとか耐えた。それでもクラクラとする感覚が襲い続け、
「はぁ……はぁ……!?」
 全身の血の流れがなくなってく感覚が次に襲った。倒れる前に、その場に座りこむと、
「げほっ、げほ……。はぁ……」
 口に手を当てて、咳を零した。
「……げほっ」
 そうか……。薬飲むの忘れてた。今日はまだ飲んでない。
 しばらく、深呼吸を繰り返しているうちに、
「はぁはぁ……」
 血の流れが元に戻ってくような錯覚がして、もう一度ゆっくりと息をはいた。
 掃除してから、薬を飲もうと立ち上がり、洗面所へと向かった。くらくらする感覚はもうしなかった。
 ――あるのは、私の足音から響く水の音だけだった。

「よしっ!」
 濡れてた床を拭き終わり、洗面所で汚れた雑巾を流すと、忘れてた薬を飲まなきゃって思った。
また、拭かなきゃいけないんだろうなぁと面倒くさい気持ちでいっぱいになりながら、居間につくとテーブルにおいてあるはずの薬を手探りで探す。
「ん――」
 あったという感触とともに、薬を取り出して、右手に五粒の薬剤をのせた。カプセル型というのだろうか。すごく人工的な味と感触がする薬。美味しくない。まずいの部類。ハッカ味と同じ。
 この薬もいつから飲んでることやら。
でもこの薬を飲む前はこんな倒れるようなことなんてなかった気もする。
 気のせいなのかな?
「げほっ……! げほっ」
 咳もだ。
左手で口を抑えると、どろりとした水の感触が左手からした。薬を飲んでないとこうして咳も止まらない。
「はぁ……」
 台所に向かうと、手を洗い、薬を飲んだ。
 喉を異物が流れる感覚がすると、私を襲った症状が収まってくような感覚が全身を伝わった。
 実際には、何分後に効果が現れるのだろうけど、プラシーボ効果というやつなのかな。
「ふぅ……」
薬を飲んだし、ラジオも聞き飽きたので、部屋で横になろうと思った。薬の効果なのかわからないけど、飲んだ後はすごく眠くなる。そういう効果はないらしいって、お母さんが言ってたけど。
あってもなくても、なることに変わらない。
「はぁ……」
居間から廊下に出るともう地面が濡れていた。
ため息をはきながらも、また拭いた。
部屋に戻ると、すぐに私は眠りについてた。
目覚めると暗闇があり、そして静寂だった。何も音がしないってくらいに静かで、不気味にさえ思えた。
だからこそ、台風が通り過ぎたのだと思う。台風の通り過ぎた後は、静かになるって最近覚えてたから。
お腹が鳴る感じがして、
「そうだ」
ご飯を食べようと部屋を出た。

 ちょっと早く着き過ぎちゃったかなぁって、病院の待合室で時間を潰してた。
そうはいってもさ、暇つぶしは待合室にあるテレビの声を聞くぐらいしかやることないけどね。
「はぁ……」
家でも病院でも結局テレビって……、どこでも何一つ変わらない自分が少し嫌になってきた。
そのおかげか――やっと大事なことを思い出せた。
「うーん?」
 そういえば、診察券取らないといけないんだった。病院ってそういう場所だしね。
そう思いながら立ち上がって、
「あっ」
 すぐに気付いた。診察券はそもそもいらなかったって。
私は直接検査する場所に行けば、大丈夫だったんだね。というより、診察券が出る位置がいまいちわからなかった。取ったことないからか……。
「……?」
それに確か私のために取り寄せた機材があるところって聞いてたし、ある意味私の部屋みたいなものなのかな?
何よりお母さんが診察券取りに席を立つってことが、なかったね。
いつも確か先生が忙しくて待ってるうちに呼ばれるとか、薬をもらう時だったような。あとは顔パスみたいな、何分後に診察してくれるみたいなある種の優遇。そういう感じだった。
――診察券はいらない。
お母さんとずっと病院にきてたから、すっかり忘れてた。
こうして、一人で病院で待つのって何時以来なんだろう?
「っ……」
少し、寂しくなった。
ずっとお母さんに大切にされてきてたんだなって思ったら、胸の奥の方が少しだけ痛くなった。
ちくちくと何か小さい針に刺されるような痛みを感じながら、私は白杖を掴み取ると、一歩一歩歩きはじめた。声をかけられても大丈夫ですって言って、先を急いだ。
早く行かないと、誰にも驚いてもらえないよね。
何だか楽しみが増えた気がした。
お母さんも喜んでくれそうな、そんな気がしたんだ。

「んっっしょっと」
 大きな扉に手をくっつけると、やっと診察室のあるエリアへと侵入した。
最近は、触るだけで扉が開く場所が増えたから、扉開けるのも楽になったよね。
 病院だけじゃなくて、デパートとか、水族館みたいな娯楽施設にもあるみたい。
私は……あんまり入ったことないからわからないけど。お母さんがそんなことを自慢げにいつも話してた。
「……?」
大きな扉を超えると――空気が何か変わった気がした。
でも、空気がほんとに違うのかはわからない。ただわかってることは、これから向かう診察室はいつも何かの薬品臭くて、冷蔵庫みたいな冷ややかな風を感じるってこと。
だからこそ、目的地が近いんだって、わかるのだけど……。
「うぅ……」
 今もその寒さがこうして身に染みこむ。長袖のワンピースにカーディガンを羽織ってるっていうのに、震えるぐらい寒い。
「はぁ、ふぅ――」
 息を両手に吹きかけると程よい感じ。でも、ずっとこうしてるわけにはいかない。
ここのエリアそのものが寒く設定されてるみたいだから、診察室につくまでやってたら、酸欠しちゃいそう。それに白杖を操れなくなっちゃうし。
でもこの寒さって、診察台でも、受付でも、緊急病棟でも、病室でも感じたことないんだよね。
それにこの変な空気って。
「ん……?」
 昔、学校で何か感じたことがあるような気もするんだけど、ぴーんと浮かばなかった。もう大分学校行ってなかったから、仕方ないかな。
 でも――、それにしても……やっぱここのエリアは何か変。
 人の気配ってのがない。
 白杖ってのはすごく目立つらしくどこに行っても、視線を感じるものだったから。だというのにさ、ここの場所って今も昔も感じたことない。
 でもまぁ、私が考えても仕方ないかぁって、足を進ませることにした。
 早く驚かせたいし、早く家でゴロゴロしたいなぁって思ったんだ。
「……?」
 診察室まであと少しって所で声が聞こえてきた。
「…………………………ってるか?」
誰だろう……、男の人かな。
「…………………………………………………をだ」
話してるのは二人……かな?
 人がいるなんて珍しいなぁって、少しずつ聞き耳を立てながら診察室の近くまで歩き続けてると、
「サンプルMは都合上、破棄されかねないらしいぞ」
「あれか? 薬物投与が多すぎるとかか? そんなの今に始まったことじゃないだろう」
 はっきりとその声が聞こえてきた。何の話だろう……?
「まぁ、それもありそうだけどな。あの薬物、劇物に近い成分だったろ。でも今回は、親の都合らしいな。ほら、最近新しい方法に変えたところだったろう」
「あぁ、あったなぁ。なんだ、やめちゃうのかぁ。折角の新薬も出来たのになぁ。試せる場所がなきゃ、外に出せないだろ。前のよりは格段に劇物じゃなくて、きちんとした新薬になってるはずなのだが」
「それはそうだな……。それでもサンプルMは、今回限りで実験終了だとか」
 実験……って、何のことだろう? それにサンプルって一体何の?
 よくわからない話のせいか、私の足は止まってた。ちょうど診察室の近くの十字路に差し掛かったところらへん。
声はその十字路の右から聞こえてくるようだった。私に気付いてないようだし、通路の奥の方にいるのかな。
「目が見えないからって、いいようにし過ぎじゃないか。まだ子供だっていうのに」
「馬鹿言うなよ、それでもいいからサンプルなんだろ? 親だってそう認識した上でお願いしてきてるんだよ。それにどこよりも新薬が試せて、なおかつ医療費は全くかからない。これ以上にない契約だろ?」
「だとしても、もう身体が限界なんじゃないか。サンプルM――は、それにサンプルYのこともあるしさ。治る可能性なんてほぼないだろうし」
 サンプルM? サンプルY? 薬の名前なのかな? それとも人……? でも人間をサンプルっていうものなのかな。
「親がいうには吐血の症状が出始めたって話らしいしな。しかも、水みたいな血らしいぞ。おそらくあの薬が影響を及ぼしてるのだろうが、これはデータとしては――」
 吐血……? それって、血を吐くってことだよね?
 胸の奥底で何かが跳ねた気がした。
 それに鼓動がさっきよりもずっと早く動いてる気もする。
 何だろう。私のことじゃないはずなのに、何かの警告みたいに耳鳴りさえしてきた。
 立ち眩みかな?
「じゃぁ、次で最後になるのか」
「あぁ、これで重病患者になるかもしれないな――八上真は」
「えっ――、それって!?」
 嘘、嘘だよ……ね? じゃぁ、サンプルMって――。
「だ、誰かいるのか!?」
 叫び声が聞こえた時、私は診察室から逆の方向へ走り出してた。
「何で……! 何で……?」
 お母さん、一体どういうことなの? 
お父さん、あの時の言葉って私のことだったの?
 色んなことが一歩ずつ足を動かす度に、頭の中を遮った。
 楽しかったこと、つらかったこと、つまらなかったこと、さびしかったこと。
 でも、それがだんだん何もなくなってくるような気がした。
 私って存在が――わからなくなり始めてた。
 
 私は白杖も使わず、無我夢中で走ってたみたいで、
「っあぅ!?」
 転んでやっとそのことに気付いた。
 後ろから足音は聞こえなかった。そもそも追いかけられてたのかわからない。気付いた時には走り出してた。もしかしたら、私以外の何かだった――違う、私の……私の名前をよんでた、はっきり八上真って。
「うっ……!?」
 白杖を使ってるのに、何故だか何度も何度も転びそうになりつつも、
「……」
 聞き慣れたざわめき声が聞こえてきた。
「……」
 ほんとにここか待合室なのか、もはや私にはわからなかった。
 呆然と聞こえてきたのは、私を呼び出すアナウンス。
 でも、終わる時には、私はもう病院にいなかった。

「はぁ……」
どうして誰も追いかけてきてくれないんだろう。病院でもそんな気配なんてなかった。ううん。私が勝手に逃げただけだから、追いかける義理なんてないか。
もしお母さんがいたら、ダメだって言ってくれたかな、逃げちゃだめだって。
でも、そうしたら……私がその実験のサンプルってことになるのかな……?
「……」
どうして……。
いつから、そうなってたんだろう。
ちっちゃい時から?
 昔からずっと病院の人は優しかったのに、あれってほんとは違ったの? 優しさなんかじゃなくて、お詫びだったの?
「……」
どこか身体が変だなって思ってたけど……もうダメなのかな。
目なんか一生見えない――ただのサンプルなのかな。
わからない、わかりたくなかった。
見える可能性がないって、言われたくなかった。
でもあの時聞こえた人の声は何か焦ってた。聞かれちゃいけないことを聞かれちゃったみたいな。
「……」
でもほんとにそうなら、私なんかすぐに捕まってるのに。目撃だって、簡単なのに。すぐに病院へ戻されるのに。
病院のアナウンスだって私を呼んでたように聞こえた。
でも、今は確かめようがない。
今はもう病院からずっと離れちゃった。
――誰もいないんだ。
「あれ……?」
 そういえば、ここどこだろう?
 歩いてるはずなのに、知ってる感覚がしない。足の感触もいつもと何か違う。
 知らない場所に来たとか?
 どこかで道を間違えちゃったっけ。もう家についてもいいはずなのに一向につく感じじゃない。
「……?」
 何も音がしなかった。
 車の音も、信号の音も、虫の声も、鳥の囀りも、人の声もしない。
 何もない。
 何もわからなかった。
「……」
 まるで私の身体のことみたい。
自分一人じゃ、何もできなくて、自分のことすらわからない、何もない世界――。
「っ……」
 怖い、そう思ってるはずなのに身体は震えることすらしない。
「あはは」
 家の方向なんて、もうわからない。
 もしかして、死んじゃったのかな。
 だからこんなにも身体が軽いのかな。
 何も怖くない、何もない。
「君は目が見えるようになりたいのかい?」
「だ、誰!?」
 声が聞こえた。
「まこと、君は何を願いたいんだい」
「えっ……」
 耳からじゃなくて、頭の中に直接響いてくる声だった。
 そんなのありえないよ、やっぱり死んじゃったんだ。
誰も追いかけてこなかったのは、私がもう触れないから……かな。
きっと最初に転んだ時にはもう死んじゃってたんだ。
きっとそう。
「目を見えるようにしたいんじゃないのかい?」
 なんて的確なことをこの声は言うんだろう。
でもダメなんだ。
「なりたいけど、無理なの。私の身体はもうダメなんだ」
 もうここにはないんでしょ。遥か地上っていうのかな。もうここは天国で、触れることすらできないんだ。
「大丈夫。ボクと契約すれば、何でもなくなるさ」
 右肩がずしりと何かの重みを感じた。
「っ……!?」
 何もないって思ってたはずなのに、確かな重みがあった。猫を抱いてるような重さ。
「君がそう思うのは勝手だけど、どうせなら契約してから考えてみないかい。目が見えるようになるかもしれないんだよ。君にとっては、それはどんなことをしても叶えたい夢じゃなかったのかい?」
 どうして知ってるんだろう。やっぱり、神さまだから?
「君の想いなら、エントロピーを凌駕できる」
「あなた、誰なの?」
 神さまじゃないの?
「ボクはキュゥべえ。さぁ、ボクと契約して、魔法少女になってよ」
 魔法少女? でも――。
「……じゃぁ、契約してみようかな」
 死んじゃったなら、今更何でもいいや。もう何も変わらない。
 お母さん、ごめんなさい。一緒に旅行行けばよかった。
『きゃははは』
「な、何っ!?」
子供の声のような奇怪な声が聞こえたと思ったら、耳元に何かが横切ったような風が伝わってきた。
な、何か私以外にいるの……?
「ぎりぎりセーフってところかな? 契約は無事成立だよ。君の想いは確かにエントロピーを凌駕した。さぁ、君の力を見せてごらん」
「な、何これ」
 私の視界が眩しくなった。それにどこか足元がふわりと離れてくような……?
 
 眩しさがなくなれば、私が、私の目が――何かを見つめてた。
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